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頷けば、彼はホッとしたような笑顔を見せる。その笑顔が零さんと重なって、遠い昔に車で連れて行ってもらったオルゴール館を思い出させた。彼があの時に買ってくれようとしていたあのオルゴール−−−宝石のようにキラキラと輝くそれから流れていたあの曲は、何という曲だっただろうか。私はそんな彼を見やりながら安室さんの好きな曲って何ですか?と尋ねていた。随分、唐突な質問ですね、と言って彼は目を見開く。
『−−−私には、まだ無いんです。好きだと思える曲が。』
素敵な曲は沢山あるのに、と呟けば、安室さんからの視線が突き刺さる。彼は暫くたってから口を開いた。
「−−−そうですねぇ...クラシックの定番ですけど、フランツ・リストの愛の夢第3番あたりは綺麗な曲だなとは思います。」
私の求める曲がクラシックだと察したらしい、彼はそう答えてくれた。
『−−−素敵な曲ですよね。』
「−−−えぇ、それとフレデリック・フランソワ・ショパンの別れの曲....でしょうか。故国ポーランドへと綴った彼の愛情と哀愁−−−その溢れる激情が、僕は好きですね。」
『−−−確か、"あぁ、我が祖国...."でしたっけ。』
「−−−えぇ。」
彼のピアノエチュードの中でも有名な曲だ。
『................どちらもピアノ曲、ですね。』
あ、別にバイオリン奏者である貴女への当てつけで言ってるわけではないですよ?と安室さんは意地悪気に笑った。本当だろうか。
「−−−まぁ、別れの曲が故郷を想って作曲した....というのは彼の弟子であるグートマンの作り話だ、という説もあるようですが。」
今でこそゆったりとした曲ですが、ショパンが最初に着想した際の指定テンポは結構な速さだったらしいですし、と安室さんは続けた。
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