【あんスタ】愉快な夕焼けを【短篇集】 (ページ2)

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翌日。

結局この水筒は、なんとかあの人混みの中をすり抜けて彼女に返そうと決めた。人見知りの自分があの場をくぐり抜けるのは至難の技と分かっていても、彼女に近づくチャンスであると思うことにした。暗示をかけるものの、やはりあの大群をかき分けるのははばかられた。故に、似合わずこんなに早朝から登校している訳なのだが。

上履き履き替える際に自分のクラスの下足場を確認する。後から設置された彼女の場所は、確かに上履きからローファーに変わっていた。運良くも登校しているのは彼女のみ。まぁ数名いなくもないが、上履きもあることを見ると部活の朝練かなにかだろう。教室にいないことは確かである。

「おはようさん、」
「おはよう、みか」

案の定、クラス内にいたのは彼女だけだった。衣装製作かなにかを頼まれたのだろう、彼女の手には針と布が握られていた。元々被服科のような感じのところに通っていたという彼女は、裁縫の腕は確かである。その腕はお師さんも確かに認めるところであり、既に学院内には知れ渡った周知の事実であった。

基本的には自分達で衣装製作をしてしまうため、彼女の衣装を自分が着ることはないのだろうけれど。丁寧に丁寧に仮止めされていくその衣装はどのような着心地なのだろう、と思想に励む。そんな自分を否し、鞄の中をゴソゴソと漁る。

「あんな、これ」
「それ、昨日足りなかったやつ…」
「そうなんよ、自分が間違えて持って帰ってしもて…それ、洗ってあるから」
「そっか。無くなったわけじゃなかったんだ」

無くしてなくて良かった、と安堵のため息を付く姿すらかわいい、だなんて思ってしまうのだから余程の重症なのだろう。彼女はしばらくその水筒を眺めて、自身のサブバッグにしまってから改めてこっちを見る。

「ありがとう、みか」

にこり。
彼女が微笑むことに、高鳴る心臓が煩い。言葉に詰まって、礼すらいうことも出来なかった。嬉しい気持ちと、申し訳ない気持ちとが入り混じって気持ち悪い。けれど自分は今確かに幸せといえよう。

届かない思いなら、せめて抱かせて。
この大空の元でそれを掲げられる日が来ずとも構わない。いつか伝えることが出来ずとも、確にこの日自分が抱いていた気持ちに偽りはないのだ。

ならば、せめてこの気持ちに全力であれ。
＿＿彼女と2人だけの早朝の教室で、ひとり誓を立てた。