四十一話 ページ47
「ねぇ、あそこで寝てるのって、
例の猫じゃないかな？」
――探しても見つからず諦めかけていた頃。
沖田さんの指差した方向に、
日向ぼっこする猫の姿があった。
「あれですね。捕まえましょう」
気合を入れる私に対して、
彼はいつも通りの足取りで近づき――。
「よいしょ」
「ぎにゃー！」
あっさりと小さな猫の身体を持ち上げる。
「待ってください、沖田さん！」
けれど私は大慌てで猫を彼の手から奪い取る。
「猫は少しのことで骨が折れたり内臓が傷ついたり、
命取りになる生き物なんです。
捕まえるんなら、優しく扱わないとですよ」
彼はびっくりしたように目を見開いて、一言呟いた。
「ご、ごめん」
素直に謝ってくれる彼に、
私は呆気をとられてしまう。
「悪気は無かったんだけど、
そこまで考えてなかったから」
「い、いいえ。
私こそ、突然生意気言ってすみません……」
「僕が不注意だったよ。
痛めつける意図は無いのに、傷つける所だったね」
何だかいつもの彼とは違う人みたい。
そんな事を口に出してしまえば、
ただでは済まされないと思うけれど。
「じゃあ、この猫は僕があの子に返しておくから。
今度は逃がさないようにちゃんと言い含めておくから
君も心配しなくていいよ」
「あ、ありがとうございます」
沖田さんは改めて私から小さな猫を受け取った。
彼は緊張した面持ちで、
猫のことを優しく抱き抱える。
「……」
そんな彼を見て、私は不思議な気分になる。
もしかしたら……もしかすると、
沖田さんは基本的に悪気が無い人なのかもしれない。
私は彼の後ろ姿を見送りながら、
出逢った当初から彼に抱いていた怯えの
ようなものが、少しほぐれるのを感じるのだった。
＜第一章 完＞
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
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作者名：reika. | 作成日時：2012年7月5日 20時
