薄桜鬼～花吹雪物語～ (ページ38)

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三十二話ページ38

「まずは千鶴さんね」

千鶴さんの部屋へ足を進めて行くと、
偶然廊下で呼びに行こうとしていた彼女と遭遇した。

「あ、千鶴さん。おはよう」

話しかけると彼女はパッと顔を上げ、
私の元へ駆け寄ってくる。

「おはよう吹雪ちゃん！
わざわざ迎えに来てくれたの？」

可愛らしい仕草でごめんね、
と謝罪する千鶴さんを見て思わず顔がほころんだ。

「この後もお迎え？」

千鶴さんの質問に私は軽く頷く。

「平助さんや土方さん、近藤さん辺りかしら」

土方さんの部屋にも行かなければならないのか。
普段あまり関わらない人なだけに、
少し抵抗感が……と、若干体が重くなるのを感じる。

「どうしたの？」

千鶴さんがきょとんとした表情で見つめてきて、
私はふと気づく。

土方さんのことは彼女に任せてしまえば
良いのでは、と。

彼女は一応土方さんの小姓として、
彼との接し方にも慣れているはずだ。

「実は、千鶴さんにお願いがあるのだけれど、
土方さんの部屋に行ってくれない？」

思い切ってお願いしてみると、
彼女は一瞬だけ硬直した後に、
私でよければ、と頷いてくれた。

土方さんの自室へと向かって行く彼女を
見届けた私は、安心して平助さんの部屋へ向かうのだった。

「平助さん？」

先程から何度も呼んでいるのに、
戸は一向に開かない。

「平助さん」

……。

相変わらず返事は返ってこない。

これ以上彼の返事を待って遅れをとってしまうと、
広間に居る皆さんにも迷惑がかかってしまう。

もうこの際仕方がない。

「平助さん、開けていい？開けるね！」

一応許可をとったつもりで、
私は勢いよく戸を開けた。

「朝ご飯の時間なんだけど――」

戸を開けた先には、布団を抱き締めたまま、
ぐっすり眠っている平助さんの光景があった。

むにゃむにゃと寝言を言う彼の無防備さに、
思わず笑みが零れてしまう。

少しの間彼の寝顔に癒されたところで、
そろそろ起こすことにした。