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三十一話 ページ37

「私はお膳運びすら手伝えません」

――あの腕の怪我が原因で、
彼は聞いている方が辛くなるくらいに
自虐的な発言をするようになった。

「山南さんは総長なのですから、
そんな雑用を手伝ってもらう訳にはいきませんよ」

なるべく明るい気分になるように、
そう言って笑って見せるけれど、
それは逆効果だったのかもしれない。

「総長。それも名ばかりの響きですがね」

苦しげに呻く山南さんの声が、
胸に突き刺さるみたいだ。

そんな彼に対して言葉もかけることが難しかった、
そのとき。

「おはよう、二人とも」

井上さんが笑顔で広間に顔を出した。
彼の登場に私は思わず安堵してしまう。

「朝食の時間だっていうのに、
他の皆はどうしたんだい?」

井上さんの疑問に答えたのは、
先程まで会話していた山南さんだった。

「皆さんも井上さんとご一緒に日課の朝稽古を
していたのでは?」

「藤堂君は不参加だったよ。
彼は昨晩の巡察当番だったから」

私も朝に見かけた人を思い出しながら
山南さんに伝えた。

「永倉さんと原田さんは廊下の掃除をして下さっています。沖田さんと斎藤さんは勝手場で、千鶴さんと土方さんはまだ自室だと思います」

永倉さんと原田さんが廊下掃除
ということが面白かったのか、山南さんは
珍しいと笑ったけれどあえて突っ込まないことにした。

「う〜む……」

井上さんが考え込んでいる時、
丁度永倉さんと原田さんが入って来る。

「お、朝飯は準備万端だな!」

永倉さんは白い歯を見せながらそう言い、
その背後から原田さんも広間に足を踏み入れる。

「吹雪。廊下掃除は終わったから心配すんなよ」

彼らに頭を下げた私に視線を向けて来たのは
井上さんだ。

「花宮君。申し訳ないんだが、
平助と雪村君の様子を見に行ってくれないか?」

井上さんに続くように、山南さんも口を開く。

「ついでに土方君の部屋も確認してもらえますか。
彼は昨日も遅くまで雑務に追われていたようですから」

山南さんの発言には少々引っ掛かる部分も
あったけれど、私は黙って彼らに従うことにした。

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作者名:reika. | 作成日時:2012年7月5日 20時

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