薄桜鬼～花吹雪物語～ (ページ35)

今日:7 hit、昨日:0 hit、合計:137,910 hit

二十九話ページ35

「おはようございます！」

小鳥の鳴き声で目を覚ます人も多いだろう早朝。
私が勝手場に顔を出すと、
そこには沖田さんと斎藤さんの姿があった。

早起きしたからか、何だか今日は気分が良くて
自然と声が大きくなってしまった。

案の定、そんな私に斎藤さんの
厳しい一言が放たれる。

「花宮。あまり大声を出すな。隊士の中には
夜遅くまで巡察に当たっていた者もいる。
せめて起床時間になるまでは、
彼らを寝かせておいてやりたい」

「す、すみません。……斎藤さんって、
やっぱりお優しいですよね」

真剣な顔で鍋と向き合っている斎藤さんの優しさに、
私は思わず感動を声に出してしまっていた。
「……花宮」

斎藤さんの顔はみるみると赤くなっていく。
それに気が付いたのか、隣で野菜を切っていた
沖田さんが会話に混ざってくる。

「そうだよ。一君は何だかんだ言って
皆のことを大切に思ってるからね」

「総司！包丁を振り回すな！」

笑いながら包丁を手にする沖田さんに対し、
斎藤さんは顔を赤らめたまま声を荒らげる。

「ちょっと一君。声が大きいよ」

ハッとしたように口を閉ざした斎藤さんを
沖田さんはけらけらと笑った。
……目的はこれか。斎藤さんもお気の毒に。

平和だな、と思いつつ笑っていると、
斎藤さんは少々お怒り気味に言う。

「……花宮。そんな所に突っ立っていないで
盛り付け終わった膳を広間の方に運んではくれないか？」

小声で謝罪した後、私は一つお膳を持ち、
汁物がこぼれてしまわないように慎重な足取りで
勝手場を出た。

「慎重に、慎重に」

何度か広間と勝手場を往復していた時のこと。

お膳を持った私の横で、突然ふすまが開く。
と同時に、聞き覚えのある声が聞こえた。

「お――！？」

その横合いから私の目の前に――。

「わ……！」

ぶつかった衝撃でお膳は私の手から離れてしまう。

どうしよう！倒れる！
私がぎゅっと目をつぶると……
肩を誰かに支えられた感触を覚えた。

「熱！？味噌汁熱！？」

ふと、目を開けると。

「危ないところだったな、吹雪。
驚かせちまったか？」

お膳も私も原田さんの腕に
がっちりと抱え込まれていた。

「自分の足で立てるか？
この体勢は結構しんどいんだが……」

笑顔を崩さず言う原田さんから、私は慌てて離れた。