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二十六話 ページ32

「私には何も言わずに、
父上と母上を見捨てたんです」

彼女の言葉に、悲しそうな怒っているような表情に、
私は何も言えなくなる。
彼女が洩らす一言一言が、私の心に突き刺さる。

「私は、そんなお姉ちゃんが許せないんです……」

響希の悲鳴のような言葉にその場の空気が静まる。

しばらくして、
斎藤さんは彼女から目を逸らさずに言った。

「……あまり無理はするな。
あんたのことを心配している者がいる」

「……わかっていますよ、そんなことくらい」

響希はすっと立ち上がり、
そのまま歩いて行ってしまった。



妹が去ってなお、ただただ倉庫の影で立ち尽くす、
そんな私に声をかけてきたのは彼だった。

「花宮。そこに居るのだろう。出てくるといい」
視線を感じ、私は諦めて斎藤さんの前に歩み出る。

「気が付いていたのですか?」

「……着物の袖が丸見えだったのだが」

その一言に、一瞬で体が硬直した。
……ああ、油断していた。

「妹の方も、あんたの存在に気が付いていたようだ」

彼女の言葉を思い出し、
私は強く手を握り締めた。

「そう、ですか」

「そんな所に突っ立っていないで、
腰をかけたらどうだ?」

予想外のお誘いに、私はゆっくりと彼に近づき、
斎藤さんの隣に腰を下ろした。

静かな風の音が、なぜか緊張をより深くする。

「あんたは……あんたは先ほどの話を
すべて聞いていたのだろう。
……どう思った?」

いきなりそんな事を聞かれ、
不覚ながら戸惑ってしまう。
上手く返せずにいると、彼は続けて口を開いた。

「……俺は俺自身の守るべきものの為に人を殺す。
それはとても罪深いことだ」

私は黙って斎藤さんの話を聞く。

「俺は昔から左利きだ」

それは初耳だった。

「だからどの道場へ行っても必ず持ち方を正される。
だが、『試衛館』……近藤局長達の居る道場の人々は、左利きのことなど何も言ってこなかった。持ち方についても、触れてこなかった」

昔のことを思い出すようにぽつりぽつりと話す彼に、
私は静かに相づちを入れる。

「剣術は、戦う為に使う。
持ち方など関係無い。戦って勝った方が強い。
……そんな俺の意見に、彼らは口を出さなかった」

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作者名:reika. | 作成日時:2012年7月5日 20時

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