薄桜鬼～花吹雪物語～ (ページ31)

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二十五話ページ31

「あんたは何故広間に顔を出さない？」

「……」

沈黙を破った斎藤さんの質問に、
響希は黙ったままだ。

斎藤さんは彼女をじっと見つめ、
溜め息をついて二言目を放つ。

「顔も酷くやつれている。
食はしっかりととっているのか？」

「いいえ、食欲がないんです」

やっと口を開いたかと思うと、
彼女が発した言葉はたったそれだけだった。

再び降りかかる沈黙。
少し経つと、静かに斎藤さんが言葉を零した。

「……怖いか？」

「……？何がですか？」

響希は訳がわからないとでも言うように
彼を見つめ返す。

「此処が、だ。……新選組が怖いか？」

新選組と言う単語が発された時、
彼女の顔は少しだけ歪んだ気がした。

「怖い、というか、嫌いです」

き、嫌い……！？
そんなこと言ってしまっても大丈夫？

不安と焦りが内心を満たしている私とは裏腹に、
そんな悪口を叩かれても斎藤さんは平然としていた。

「人を殺しているからか？」

彼の問いに彼女は小さく頷く。

「当たり前です。簡単に人を殺せるなんて。
……どうしてそんなことが出来るんですか？」

軽く斎藤さんを睨み付けた響希に、
彼は静かに答えた。

「……守る為、だ。俺には守りたいものがある」

何を守るのですか。
響希の疑問に斎藤さんは
決意を帯びた目をして声を出す。

「新選組だ。
俺は新選組を守る為だったら何でもする」

何が不満だったのだろうか。
彼女は小さく悪態を吐いた。

「……馬鹿馬鹿しいですね」

けれど、ふと寂しそうな目をして下を向き、呟く。

「でも、私も守られてたんだよね、お姉ちゃんに」

「あんたの姉に、か？」

問いかける斎藤さんに、彼女は静かに頷いた。

「私、昔、友達にいじめられたことがあって。
真っ先に助けてくれたのはお姉ちゃんでした」

響希は懐かしそうに昔のことを語る。

「お姉ちゃんはそこで母上と、
私を守るって約束してくれたんです。
あの言葉は本当に嬉しかった」

少しだけ頬を緩めた彼女を見て、
私は何だか寂しい気持ちになる。

「時々、私はお姉ちゃんに聞きました。
父上や母上のこともお姉ちゃんが守ってくれるよね？って。……そうしたらお姉ちゃんはいつでも笑顔で頷いてくれました」

斎藤さんは、響希の話を黙って聞いていた。

「私はお姉ちゃんを信じていました。
なのに……なのに、
お姉ちゃんは、父上と母上を見捨てた」