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二十話 ページ26

響希はこんなことを望んでいない。
望むはずがない。

妹が、仲の良いはずの友達にいじめられている。

最初は信じられなかった。信じたくなかった。



「うわああん! お母さーん!」

「もうやめてよ〜!」

錆びた鉄のような匂い。

「お姉ちゃん、もうやめて……っ!」

血の匂いが、鼻の中に入り込んでいく。
上手く呼吸が出来ないまま、
震える私の右手には赤い血がこびりついていた。


「ちょっとあなた! うちの子に何してるの!?」


後からやってきた野次の声なんて、
耳から耳へと抜けていく。
私の心に響く言葉なんて聞こえなかった。

「ちよ、大丈夫!?」

「こわいよぉ〜!」

「謝ってちょうだい!
もしかしたらひとみは大きな怪我を
負ってるかもしれないのよ!?」

「謝って済む問題じゃないわ!」

謝って済む問題じゃない?
それはこちらの台詞だ。

あなた方の娘さんたちこそ妹をいじめていたのです、
謝るのはそちら側ではないですか。

それを口に出せなかった私は、
悔しさのあまりに暴言を吐く。


「嫌だっ……!謝らない……!」


無意識に溢れ出す言葉は、
大人たちの喧嘩を買うもので。

けれど彼女らの様子を伺っている余裕など
私自身には無く、ただただ泣いている響希に
頻繁に笑顔を向けることしか出来なかった。

「……大丈夫だよ響希。こういう悪い奴らには、
私から復讐してあげるから」

「もうやめて……もう、いいから!」

妹に喜んでもらう為ならば、私は何だってする。
妹を笑顔にする為ならば、
例え私が悪役になってしまってもいい。

「私は響希のために仕返しを――」

そんな私を止める人物が居た。


「もうおやめなさい」


背後からした声に振り返ると、
視界に映ったのは母の姿だった。

「母、上……」

驚きと不安で冷や汗が流れそうになる私を、
母は真っ直ぐな目で見つめていた。


「謝りなさい」


普段ならば母に従う私も、これだけは譲れなかった。
悔しいままで終わることを認めたくなかった。


「嫌だ、謝る理由が思いつかない!
こいつらは響希をいじめた!
私は何も間違ってない!!」

「あなたに殴られた子は、苦しんでいる。
暴力を振るったあなたが悪いわ」

「私は間違ってなんかいない!」

「謝りなさい!!」


私はその時、初めて優しい母が
怒る姿を見るのだった。

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作者名:reika. | 作成日時:2012年7月5日 20時

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