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月島くんが後衛に下がってサーブを打つ今、烏野の布陣は攻撃型。
サーブで崩していきたいところだけど、月島くんはサーブが苦手だったはず──
「!」
そんな私の考えは見事にはずれ、コートの手前に落とす攻めたサーブが打ち込まれた。
乱れはしたものの、稲荷崎か確実に攻撃に繋げてくる。
「速い……」
このラリーで決めたい。その想いが溢れているからか、烏野の動きはどこか忙しなく細やかだ。それは焦りから来るものだということは、コートの外にいるからこそわかる事だろう。
ダイナミックかつ大胆な烏野の攻撃力が弱まってしまう。そう思った時、そこに待ったをかけたのは日向くんだった。
「……」
さっきから何度も、日向くんはスーパーレシーブを繰り返していて、今回も焦る皆を正気に戻すふんわりとゆるやかなAパス。
しかし、日向くんのファインプレーで十分な準備時間を得てのシンクロ攻撃はブロックに阻まれ、飛雄くん、月島くん、キャプテンが食らいついてなんとか返した。
皆、すごい。わかってはいたけど、こんなにも成長していたなんて……。
嬉しさと、誇らしさと、そして、やっぱり大きな悔しさと、焦り。
いろんな感情が入り交じってじわりと涙が滲んだ。
そして──
「!!」
ここで使うか、と誰もが息を飲んだ稲荷崎の宮兄弟による速攻を、日向くんと飛雄くんは読んでいた。
2人のブロックに弾かれたスパイクは、そのまま、稲荷崎のコートへと
──落ちた。
一気に体育館中を揺らすようなどよめきが広がる。
烏野の勝利。
チームの皆が、2人を押しつぶさん勢いで集まっている様子を眺めながら、私は今にも涙が零れそうなことに気づいてぐしぐしと乱暴に目を擦った。
「ナイスゲームッ」
「りゅうーっっ」
試合を終えた烏野の皆が応援席前に集まってくる。
ありがとうございましたと頭を下げる烏野に、私はこのごちゃごちゃの感情から何を言うことも出来なくて、ただただ力任せに拍手をした。
「あ、Aちゃん!?」
そして、皆が頭を上げ切る前に走ってその場から離れる。
今すぐにでも練習を始めたい。試合に出たい。バレーがしたい。
マネージャーだった頃の私にはなかった、ライバル心。
私が目指そうとしている世界は、遥か遠い場所にあると、強く強く、思い知らされる。
「……っ」
選手としての私がちゃんと第一歩を踏み出したのは、間違いなく、今日だと思った。
*****
あと4つ
すこしさびしい
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しおり(プロフ) - りんさん» ありがとうございます!ネタ考えます🤔 (2022年11月30日 8時) (レス) id: 0e2f0640dd (このIDを非表示/違反報告)
りん - マジで面白いです!いつも楽しみの更新待ってます (2022年11月27日 20時) (レス) id: e34fa82e55 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しおり | 作者ホームページ:http://nanos.jp/amakusa40/
作成日時:2022年10月10日 21時