検索窓
今日:4 hit、昨日:12 hit、合計:26,546 hit

2 ページ27

「っ、はぁ……」

思わず、ため息が漏れた。手すりに額を当て、目を閉じる。
なんて美しいトス。なんて、冷静なプレー。
賞賛すべきその光景を見て湧き上がってきた自分の感情は──否、この試合の途中から、むくむくと湧き上がってきた感情があまりに意外で、自分でも驚いたんだ。
飛雄くんのサーブ。勢いのあるジャンプサーブを稲荷崎が弾き、サービスエース。次いだサーブも相手の心理を読んで手前に落とし、巡ってきたチャンスボールを確実に決めていく。

「……くやしいなぁ……っ」

悔しい。憧れを通り越して現れた感情は、悔しさだった。
呟いた声は、応援の声にかき消されて誰にも届いていないだろう。
新山女子に入って、練習試合ではスタメンに混じって出場させてもらったこともある。
毎日の練習も、自主練もかかさなかったからこそ、ある程度の実力が、伴っていると思っていたのに。
選手として、私はまだ、全然飛雄くんに追いつけてない。
彼らの背中が、遠く遠く、離れていることを突きつけられる。
その現実にきつく目を閉じ、悔しさをじっと噛み締めた。

「頑張れ……!!」

「ブレイクしてくれぇ……っ」

デュースにもつれ込んでからも、なかなか決着はつかない。
取って、取られ。当初の応援合戦は過去の出来事。応援席はもはや祈ることしかできないようだった。

「……」

この試合の結末を、見ない選択肢はない。
目を開け、体勢を正し、再びまっすぐコートへと視線を落とす。
本当は、今すぐにでもこの場を離れて、ボールに触れて、何かしらの練習をしたい。がむしゃらに行動したい。

でも、多分それは逃げだ。
この悔しさは、私がちゃんと選手に戻れたからこそ感じているんだ。そしてこの気持ちはいつか、何かでつまずいた時、必ず私の糧になるハズだから。

「逃げるな……」

点数は、烏野リードで30-31にまで上った。
必ず終わりは来る。どちらかが勝ち、どちらかが負けるんだ。
コンディションとして、身体は限界、思考はクリアという選手にはもどかしい状態だと思う。
あまりに長い試合時間。周りの選手や観客も、烏野vs稲荷崎の試合に注目しているようだった。
それはそうだと思う。この試合は、高校生レベルを越えているからだ。

「あと1点……」

そう呟いたのは誰かわからない。
烏野の体力や精神力を考えても、もう、このラリーで終わらせたいと、何度も思っているはずだ。

3→←第63話:選手になるということ



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (48 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
354人がお気に入り
設定タグ:HQ , 影山飛雄 , ハイキュー   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

しおり(プロフ) - りんさん» ありがとうございます!ネタ考えます🤔 (2022年11月30日 8時) (レス) id: 0e2f0640dd (このIDを非表示/違反報告)
りん - マジで面白いです!いつも楽しみの更新待ってます (2022年11月27日 20時) (レス) id: e34fa82e55 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:しおり | 作者ホームページ:http://nanos.jp/amakusa40/  
作成日時:2022年10月10日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。