第63話:選手になるということ ページ26
第63話
迎えた3セット目。
序盤から宮侑が西谷先輩相手にノータッチエースを奪った時はヒヤリとしたけれど、飲まれることなく食いついた烏野。
取って取られを繰り返し、大きく点差が開くことなく試合は進んだ。
そして、じわじわと点数が25点に近づき、先に王手をかけたのは、
「……」
24-22。稲荷崎だった。
大きく息を吸い、吐く。心臓はバクバクと高鳴り、手は汗ばんでいた。
プレーヤーに戻って、感じたことがある。やっぱり私はメンタルが弱い。練習試合でさえ、こんな局面を迎えた時、こっちに来るなと思ってしまうんだ。仮に私にボールが回ってきたらと思うと、緊張で体が固くなる。
多分、どちらかと言えば私の反応が普通だと思う。でも、影山くんや日向くん、あと多分、稲荷崎も、とにかく、もっともっと高みに行くべき人達は、そんなことを少しも考えていない。
目の前のラリーを制することしか、考えていない。
その姿を見て、私もそうなりたいと思った。
とはいえ、この性格は、すぐに変われるものではない。だから──
「楽しくなってきた!」
「え!?」
「Aちゃん……?」
震える手を握りしめ、応援席にいる人立ちにも聞こえるように、大きな声で言い聞かせる。
落ち込んだって、怖がったって、目の前の状況は変わらない。それなら、楽しんで迎えよう、このドキドキを!そう心に決めて試合を見つめるけど、手すりを握りしめる手からは汗が止まらないし、力が入る。
この発言はただの強がりで、コートにいる日向くんや飛雄くんのようなマインドにはなれていないことは、冴子さんも嶋田さんたちも、きっと気づいているだろう。
そして、そんな必死な私を嘲笑うかのように、この状況下でも、飛雄くんはとても、とても冷静だった。
どんなに乱れたボールも、スパイカーの選択肢を増やす位置へ美しい放物線を描くトスを上げる。
そのトスが、あまりに、見事で──……
「だらっしゃあぁあああ!!」
田中先輩のキレのあるストレートが相手コートに叩きつけられた。
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しおり(プロフ) - りんさん» ありがとうございます!ネタ考えます🤔 (2022年11月30日 8時) (レス) id: 0e2f0640dd (このIDを非表示/違反報告)
りん - マジで面白いです!いつも楽しみの更新待ってます (2022年11月27日 20時) (レス) id: e34fa82e55 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しおり | 作者ホームページ:http://nanos.jp/amakusa40/
作成日時:2022年10月10日 21時