■閑話 T.Mとappointment ページ37
今日は良い天気で、喫茶店のテラスに座っている。暖かくて目を瞑ったら眠ってしまいそうだ。
読んでいた本を閉じて本当に寝てしまおうとすると、ハット帽を被った長身の男が話掛けてきた。
「なぁあんた!」
何ヵ月前だったか、ウェイトレスとこの男がぶつかりコーヒーを被り、私は手助けた。
整った顔と何処と無く漂う色気、きちんとした身なり、ウェイトレスが目を奪われるのもわかる。
多分私に心臓があるなら、今ドキドキと脈打って会話すらままならないだろう。
「この前、ハンカチありがとな」
『いえ、火傷とかありませんでした?』
「あぁ、大丈夫だよ」
『そう、それは良かったです』
「日本人?ごく珠に見かけるけど、ここら辺住んでんの?」
『えぇ、純血じゃないですけど…
実家に近いので、帰る時はよくここで休憩してるんです。ず〜っと行くと、麦畑あるじゃないですか?その手前に住んでますよ』
「へぇ…」
ちょっと饒舌過ぎたかな、心臓無くてもかっこいい人を見ると気分は上がるものだ。
でも、この人……“ 記憶 ”で見た事あるような気がする。
いや、あれはだいぶ昔の物のはずだ。十代でも四十才だ、それにしては、若すぎる。
『聞いてきたのに興味なさそうですね』
「ハハッ、そうでもないさそろそろ時間だなって思って」
『御仕事ですか?』
「まぁな、買う時間もねぇし、それもらってい?」
指差したのは、いつも持ち帰りで注文するサンドイッチの袋。
『結構良い身なりですけど、こんなんで良いんです?』
「オレが良いんだから良いの。ちょーだいそれ」
『何かの交換を求めます』
「え〜時間無いってのに!」
焦ったような顔でポケットを探っている、身なりは良いのに田舎くさい人だ。
好感しかないな…と私は笑みが溢れた。
『ふふっ嘘ですよ。どうぞ、中身は野菜のサンドイッチです』
「あんがと、」
袋を手渡しするとにこっと笑った。
「あっ、今度いつここに来る?」
『わかりません、仕事から逃げて来てるので気が向いたらとしか、』
「じゃあさ、次会ったら一緒にお茶しようぜ。愚痴聞かせろよ」
『身知らずの貴方に?』
「自己紹介もそん時で良いや、そしたら身は知ることになるだろお嬢さん?」
『お嬢さんって、私』
「おっと、そういうのも今度だ。じゃあな!」
颯爽と去っていく男との再開が、少し待ち遠しかった。
end
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作者名:名取針子 | 作成日時:2019年4月15日 19時