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第28録 生きてと言う声 ページ34

「?」

『うぁ、あああああああああああああ!!!』

ずるり、Aの胸から何かを抜き出した。

「!?」

『っ、いの……せんす……返して』

か細い声でAは懇願している。

『返して、それは……駄目、嫌だ』

カランッと音を立てて落ちる。
イノセンスは太刀の形を取っていた。

クロスが急いでAの服に手を掛け捲る。心臓がある場所には傷一つない、そっと胸に手を置くとある筈の鼓動が失くなっていた。

「……」

『嫌、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

叫び続けるAの腹を殴り気絶させた。

そして、次に起きた時、彼女に表情は無かった。縛っていた手を解くとクロスはイノセンスの事、心臓の事を話す。

「時期が来るまで黙っとけ」

『……クロス』

「何だ」

『イノセンスをちょうだい』

「駄目だ」

『なんで』

「少し落ち着け、」

『落ち着いてる』

「はぁ……」

Aに太刀を渡すと彼女はそれを抱き締める。
ドクドクと脈打つそれはまるで心臓の様だった。

『夢を見るの、幻覚じゃなくって確かに“ 誰か ”の“ 記憶 ”なの、

クロス……どうしたら良い?

夢を見たら私が私じゃなくなる気がするよ……』

「それも、黙っとけ……まだ時じゃない」

そして数日後、Aはクロスの元を去った。




…………。

アニタが口を押さえて泣いた。

『それに、私は人よりも怪我の治りが早い……ね。人間じゃないでしょ?』

「っ、」

ぎゅっと抱きしめられる。

「貴女は、本当は……っ」

『アニタさん、ごめん……泣いても良い?』

「えぇ、泣くのは人間である証拠、貴女はちゃんと人間です。少しだけ人と違うだけ……

貴女とクロス様の話を聞けて良かったわ」

静かに涙を流すA、それを誰にも見えないように腕に閉じ込めるアニタ、ポツリポツリと雨が降る。

「……負けないで、その“ 記憶 ”に、私は貴女に生きて欲しい」

『ありが、とう……っ、ごめんなさい。守ってあげれなくて、ごめんっ』

「雨だ…クロス様の好きな天気……」

「主」

マホジャの声にアニタが振り返る。

あぁ、ごめんなさいクロス元帥……

「アクマとエクソシスト様方を甲板へ呼んで頂戴」



そして、別れは呆気なく、船は跡形もなく沈んで行った。

その渦中、キツイと言葉を漏らしたブックマンのJr.

Aはそっと、海に向かって手を合わせて頭を下げる。

嗚咽と雨音が響いていた。



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作者名:名取針子 | 作成日時:2019年4月15日 19時

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