5. 分からない。 ページ5
次の日―――
選手たちの練習を見ながら動きをメモしていく。
これは日本代表のマネージャーになった頃からちょこちょこしているもので、趣味の1つだった。
休憩に入り、選手たちにドリンクと軽食を配り終えると佐久間クンが近づいてきた。
「気になっていたんだが…そのノートに何を書いていたんだ？」
近づいてきた瞬間は少し緊張してしまったが、声を聞くとなんとなく安心する。
「ン、ただのヒマつぶしだよォ」
ベンチに置いていたノートを佐久間クンに渡す。
ノートを開くと丁寧に中身を読み進めていく。
なんだか採点をして貰っているようで緊張感があるな。
そしてあらかた見終わると感心したように頷いた。
「凄いじゃないか、自分じゃ気づけないような所まで細かく書いてある。
これ、帝国に戻ってからも続けてくれないか？
練習の効率化に使えそうだ。
…もちろんAがよければだが。」
そう言ってにこりと微笑まれると照れくさくなる。
それに、頼りにされるのってとっても嬉しい。
自然と口角が上がってしまう。
「ン……イイヨ。」
喜んでいるのを悟られたくなかったので少し俯く。
少しぎこちなくなってしまっただろうか。
なんとなく声が上擦ってしまった気がする。
「あ、……ありがとう。…その、これも。」
少し急ぎ気味でノートを返されるとそそくさと鬼道のもとに行ってしまった。
「おい、俺にも見せろ。」
佐久間クンが去ってすぐ、兄ちゃんが後ろから肩を組んでくる。
「ん、はい。」
ノートを渡すとパラパラと簡単に見ていく。
「……イイんじゃねェの？
………俺の悪い所書いてないこと以外。なんで？」
なぜ？と問われるが、私はなぜそんなことを聞かれているかすら分からなかった。
だって私にとって兄ちゃんはーー、
「兄ちゃんは私の目指すべき所で、駄目な所なんて無い。」
私の返答を聞くと兄ちゃんは呆れたように深くため息をついた。
そしてノートで軽くぽん、と頭を叩く。
「それじゃあお前はもうこれ以上成長しねェ。」
そのまま元いた場所まで戻ってしまった。
私は言われたことがいまいち分からないままノートを眺めた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 50人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：リリィ | 作成日時：2022年9月11日 11時
