◇御幸のショートショート (ページ6)

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親不知③ ページ6

「一人で帰れんの？」

「うん。帰れる」

　御幸は手を差し出してくれた。

私は手を借りて、立ち上がってみたが、立ちくらんで少しよろける。

「おっ……っと」

　御幸が支えてくれた。

少しだけ近い距離にちょっとドキドキする。

御幸の顔を見ると、少し眉を下げて私を見つめていた。

「そんな、頼りねぇかもだけど、なんかあったらいつでも言って？」

「なんで？」

「親、いねぇんだろ？」

　やっとピンと来た。

「ウチ、両親いるよ！元気だよ！」

「へ？」

　御幸は気の抜けたようなアホな顔をして、少しするとみるみるうちに顔を真っ赤にした。

「うわ言で。親、知らないとかなんとか」

「それ、親知らず！炎症起こしてて痛くて痛くてだったの！」

御幸はしゃがみこんだ。

「ご、ゴメン！変な神経使わせちゃった！」

「……良かった」

「え？」

　御幸はすっくと立ち上がり、私を見下ろした。

「良かった！親、生きてて！」

御幸はこの世のものとは思えないくらいの晴れた顔で笑った。

「っつーか、子どもの歯がないところに生えてくるから親知らずって、どっち視点なんだろうな？子ども？親？おかしくね？」

「ホントだ！確かに！」

　二人でアハハと笑って、なんとも言えないその場はなんとかなった。

•

　私は早退することにした。

御幸は教室から移動されていた私のカバンを持ってくれて、廊下をずっと無言で歩いた。

昇降口に着いた時、御幸が口を開く。目は合わない。

「あのさ……」

「ん？」

「なんかあったらいつでも言ってって言ったのはノーカンじゃねぇからな？」

「うん。ん？ありがとう？」

「役には立ちたいと思ってるって言うか……」

　私は眉をひそめた。

　

「うーん？」

　御幸は少し顔を歪ませた。

「あー。やっぱ無理。なんでもねぇ。ホント、気をつけて帰れよ？家着いたら連絡……、あぁ」

　御幸はポケットからガラケーを取り出して、電話番号を表示させると、

「ココ、電話して？」

と、言った。

「分かった。心配かけてごめんね？」

　私の頭をポンポンと軽く叩いた御幸は、

「こっちが心配したいだけ」

と、言って、手を振った。

　はじまりは、そんな感じ。

　 MAMIN_works