赤と黒のLiberations8

【桜色】8　☆ ページ8

はかなくて、でもどこか寂しくもある彼のスケートは、希望をもって前を向いてゆけるよう、後押ししてくれているようでもあるのだ。

そして最後に、天から舞い降りた光を、自分自身で抱きしめる。

それだけで、彼のスケートの一番美しい部分が、このプログラムから溢れだす。

「何やってんだろ、私…。」

自然と大きくなる拍手の中で今、猛烈に自分を情けなく思う。

そして、彼はいつも私を幸せな気持ちにしてくれるのに、私はその幸せを何一つ返せていないことに気付く。
それどころか、このくだらないお見合いで大好きな人を傷つけた。

恋人同士で、しかもお互い好き合ってるのに、なんで他の人とお見合いなんてするんだろう。

「ほんとバカ。」

テレビの中の慈愛に満ちた表情の羽生くんと自分を比べて、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

いくら親戚の頼みでも、嫌なことは嫌と自分の気持ちをはっきり言えばよかったんだ。
そうすれば、私は堂々と羽生くんと向き合えたのに。

そんな自責の念に苛まれていると、不意にポケットに入れていた携帯が鳴った。
取り出して確認したら、そこには親戚の叔母さんからのメッセージが。

『Aちゃんごめんなさい。お相手の方、電車のダイヤが乱れてて少し遅れそうなの。』

……。
それを読んでため息が出る。

いい大人が遅刻なの。
雪が降ってる訳じゃあるまいし、少し早めに出ればいいだけなのに。

「バカみたい。」

その瞬間、変なスイッチが入る。
こっちがこんなに真剣に悩んでいたのに、相手の人が羽生くんと比べるまでもないことがよーく分かった。

「やめた。」

もう気持ちが限界だ。私は全ての荷物を持ち、コートを持ってＳホテルから出た。







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