おやつの別腹は証明済みの話 ページ30
なんでも、おやつは別腹という言葉は嘘ではないらしい。
実際におやつと聞くと万人が喜ぶらしく、自然と胃におやつ用の空白ができるという。
彼女の場合、先ほどの分厚過ぎるステーキとご飯を食べて、さらに黒子の分と降旗の分と小金井の分を食べた。
残りは火神の腹の中に入ってしまった事が、なんとも不本意であったものの、彼女はそれでも空き容量があると黒子はある意味感心していた。
火神と同等、それ以上の胃袋があの華奢な体の養分となることは未だに信じられない。
「うむ。甘いは正義じゃ。お主らも頼めばよい。こんな老いぼれの財布など気にするな」
めちゃくちゃ気にする。
それは言えない3人。
何故なら此処は、黄瀬が気軽に入ったとはいえども少しお高いお店。
店内のモダンな雰囲気は他の店とは一線を画して違うというのは何となく察した。
出されてくるものも、一点千円以上は当たり前。
パンケーキ一つが千円以上、それ以外は二千円か、最高でも六千円もする代物。
甘いだけではない。
珈琲もそれ以外もそれなりの値段をする。
お水を頼むだけで、お腹いっぱいだった。
そして、そんな彼女が食べてるのは、最高金額とも言えるスイーツ。
パンケーキが積み重なってホイップクリームが満遍なく乗せられ、フルーツも瑞々しいカットフルーツ。
そしてチョコソースやトッピングは自由。
頼むのがハードルの高いものとはいえ、それをいとも容易く買ってしまう様に何となく生き物としての格の違いを見せつけられたような気がした。
「いや……ほんとスンマセン…」
「黄瀬君……流石にお店のことは知っていましょう……」
いわゆる高級店に入ってしまった罪悪感は黄瀬の心に負荷となって現れる。
「せっかく神奈川に来たのじゃ。美味しいスイーツ巡りをしたいと思っておってな。このぐらいの出費は別に痛くも痒くもない。それよりお前たちも頼んだらどうだ?私は遠慮なく頼んだぞ?お主らも遠慮なく頼まんか」
「麗白さんは良いかもしれませんが、僕達が遠慮します……」
「しようがないのぅ…。黄色いの、そこのメニュー表を貸せ」
彼女がしようとしてることに察しが付いた黒子はいち早くメニュー表を取り上げる。
「頼みますから、自分から選んで頼むようなことはしないでください」
「おや残念」
頼まなければならないという雰囲気に既に胃の中がキリキリしてきた彼らは、渋々とこの店で最も安いパンケーキを頼むのだった。
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作者名:ほんばし | 作成日時:2022年5月6日 16時