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Aside
千羅くんの両手は落とされたままで、私を抱きしめ返しはしない。
こういう時にうまい言葉が見つからない。
なんて言えば、なんて言えば千羅くんに伝わるんだろう。
頭を一生懸命回転させても、まだまだ私にはわからない。
だから、思っていることを、ありのままに伝えるしか出来ないんだ。
「本当に、ごめんなさい。……でも、信じてほしい。私が誰よりも好きなのは、千羅くんだよ」
「それはほんまなん?無理、してない?」
「してるわけない!」
抱き締めていた腕を千羅くんの方に置き、しっかり目と目を合わせた。
震えていた彼の瞳が、少しずつ柔らかい光を帯びていく。
「……そっ、か」
千羅くんはそう言って、にっこりと嬉しそうに微笑んだ。
よかった、ちゃんと信じてもらえたみたい。
やっぱり坂田家のままでいるの、千羅くんにとっては嫌なんだろうな……もう少し控えよ。
なんて考えていたせいで、千羅くんが口角を上げていることに気が付かなかった。
「なぁーAー」
「?」
千羅くんはいたずらっ子のような……さすがにそこまで可愛げのあるものではないけれど、それに近いような笑みを浮かべてこう言った。
「キス、して?」
その言葉に、一瞬思考回路が停止する。
えっ、今、千羅くん、なんて言った……?
わ、私の聞き間違いであると信じたい。
「き、キス……?」
「うん、キス」
聞き間違いじゃなかった……。
付き合い始めてもう1ヶ月以上は経っているから、さすがに何回か唇を重ねたことはあった。
でも、それらは全て千羅くんからしてきたもので、私から千羅くんにキスしたことなんて一度も、ない。
なんとかひいた熱が、再び顔に集まっていく。
「さすがにちょっと傷ついたんよ、A、坂田と一緒でいつもより楽しそうやったし」
「だから……な?」と特徴的な京都訛りのある声で言われてしまえば、もう、逆らえない。
きっと、きっとだけど千羅くんは、私が千羅くんの声をものすごく好きって気がついている。
そうわかってて使うなんて
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響 - これからも頑張ってください!長文失礼しました。(続きです。初めてこんなにコメント書きました(笑)) (2022年3月2日 17時) (レス) id: 7b474202c0 (このIDを非表示/違反報告)
響 - 日替わりのほうで予告を見て読ませていただきました!語彙力ないのでうまく伝えられるかわかりませんが一つ一つのお話がしっかりしていて話の展開も全然急じゃないのに飽きなくてすっごくいい作品でした!個人的には番外編の志麻さんが出てくるお話が好きです(笑) (2022年3月2日 17時) (レス) @page44 id: 7b474202c0 (このIDを非表示/違反報告)
坂ちゃん(プロフ) - やばい。すげぇ似てる。私、恋人いるんですけど、坂田家なんです。その上恋人の好きな色は黄色... (2018年12月24日 11時) (レス) id: 2e3d2564c8 (このIDを非表示/違反報告)
せらてゃ - 全て読ませて頂きました!!小説読んでて初めて笑いましたwwおもしろいとこがたくさんあって笑っちゃいましたwもうかわいかったです!!これからも頑張ってください(><) (2018年11月25日 1時) (レス) id: 838c277702 (このIDを非表示/違反報告)
ほわいとふぃっしゅ(プロフ) - つぼみさん» そのように言っていただけて本当に嬉しいです……。少し先になってしまうのですが、坂田さんの短編を書かせて頂きたいなとは思っているので、気長にお待ちください!! (2018年10月29日 18時) (レス) id: b3ad7ee62f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほわいとふぃっしゅ | 作成日時:2018年9月8日 22時