書き記そう ページ20
【アラン視点】
「はぁ……」
もはや自分の家のように感じているこの部屋に戻ってきた瞬間、無意識にため息が出てしまった。
「結局、今の今まで渡せずじまいだな……」
俺は机の上に置きっぱなしのAの日記帳を手に取った。
帰り道、サトシとAと三人で話し込み、Aと夕食を食べながら今日の互いのバトルについて語り合っていたから、これを考えることを忘れてしまっていた。
リーグが終わる前に、これをAに渡しておかないといけない。なぜだかそんな使命感がある。
しかし、決勝戦を控えているあいつにこんな重いものを渡してしまったら、互いにすっきりした気持ちで決勝の舞台に立てなくなりそうで。それは避けたい。あいつも、何のわだかまりもなく俺とぶつかり合いたいはずだ。
どうしたものか。そう思っていたら、ふと久しぶりにマノンに会ったときのことを思い出した。
『願いが叶うおまじないを教えてくれたんだ。願いを叶えたい者の記憶が詰まっている物……思い出の物に、縁のある人からのメッセージを書いてもらえればいいって』
願いを叶えたい者の記憶が詰まっている物。まさに、この日記帳のことじゃないか。
俺は日記帳のページを勢いよく捲り、ペンを探した。ペン先をあらわにしたが、そこで動きを止めた。
「……本当に俺が書いていいのだろうか」
この日記帳はAのものだ。A以外の人物がこの日記帳に何かを書き記すことは、Aの日記を、記憶を台無しにすることではないか?
迷いでペン先が震える。
――大丈夫よ。あの子はそれを望んでいる
久しぶりに脳内に飛び込んできた声があった。
「シズカ……?」
返事はない。それでも、今の声は確かにシズカだった。
俺の幻聴かもしれない。それでもいい。俺はシズカを信じたい。シズカが、プロトタイプが、あの実験場から俺を励ますためにメッセージを送ってくれたと思いたい。
迷いはなくなった。書き記そう。俺の想いを。
最初に書いた文字のインクが乾ききらないうちに、1ページびっしりと書き上げてしまった。
書いている間、俺の頭の中はあいつへの想いでいっぱいになっていた。
Aの願い、すっきりとした気持ちで決勝を迎えたいという俺たちの想いを、どうか叶えてほしい。
そうまでしてでも、俺はAに、真実を、あいつ自身の記憶を知ってほしいんだ。
明日、絶対にこれをあいつに渡そう。あいつがこれを読んで混乱してしまったら、俺がしっかり支えてあげよう。
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作者名:頂志桜 | 作成日時:2019年7月31日 20時