当然のこと ページ19
差し出されたアランの手を再び優しく握り、私はアランの瞳を覗き込んだ。
「……どうした?」
アランは少し、ほんの少しだけ照れている。ただ、それよりはるかに『最強』への固執の感情が強く、顔が強張っている。
「アラン、焦ってますよね?」
「え?」
本人は無自覚なようだ。本当に何のことかわからないといった表情をしている。
「サトシとの戦いで、ゲッコウガにドラゴンクローを決める前から、ずっと、『最強』に固執しているような気がするんです。一刻も早く『最強』になりたい……そんな気持ちが強すぎるんです」
アランは黙って私の言葉を噛み砕いていた。
「私は、そんな状態のアランと戦いたくないんです。大きなものを背負いすぎて、焦って苦しい状態のアランと戦っても、両方にとって良くないって、楽しくないって思うんです」
私だって、最強になりたい。お母さんを超せるくらいの強さをもって、ポケモンマスターになりたい。そう思っているけれど、想いがあまりにも強すぎると、大事なものを忘れてしまう。楽しむ気持ちを忘れてしまう。それを知っているから、程々に想っているんだ。
アランにそれを伝えた。そして彼の手から伝わる脈動を感じてみた。早かった脈拍が徐々にゆっくりになっていく。
「A」
やっとアランが声を出した。そう思うと同時に、身体がふっと引き寄せられる感覚がした。
「……え?」
気づいたら、私はアランの腕の中にいた。いつの間にか、私はアランに抱き締められていた。
「ありがとう。俺、お前と出会う前みたいになるところだった。本当の『最強』は、『最強』になることに振り回されていたらいつまで経ってもなれないよな」
顔を上げてみると、穏やかな表情をしたアラン。綺麗な顔立ちで微笑む彼に、また惚れ直してしまう。
「またお前に助けられたな、A」
「大切な人を助けるのは、当然のことですから」
お互い照れくさくなって、同時に吹き出した。幸せな笑い声が二つ、控え室に響いた。
「決戦戦は明後日ですから、まだまだ準備する時間は十分ありますね」
「今すぐにでもお前と戦いたいくらいだけどな」
アランのその言葉は、早く『最強』になりたい、という意味ではなくて、純粋に早く楽しいバトルがしたいという意味だ。落ち着いたみたいでよかった。
「アラン!! A!!」
選手村へと帰る道で、私たちはその声に出会った。昨日と同じような展開。
私とアランは瞬時に顔を見合わせて、同時に振り返った。
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作者名:頂志桜 | 作成日時:2019年7月31日 20時