9話 ページ9
「今は、日本代表のことだけ考えようぜ!」
鞄を肩に掛け土手を上がっていく鬼道。その寂しげでいつもより小さく見える背中に円堂はそう叫んだ。忘れろとは言わない。だが日本代表を決める大事な試合を自分ではなく、他人によって左右されてほしくはなかった。
「…選考試合で会おう」
「ああ、負けないぜ!そして一緒に、世界へ行こう!!」
肩越しに言った鬼道に、円堂は気合十分といった様子で言葉を返した。『鬼道君』そして去ろうとするところを、円堂に続き立ち上がった水城が呼び止める。鬼道は足を止め振り返った。
『…また一緒に、サッカーやろうね』
「……ああ、必ず」
少し口角を上げ力なく笑った鬼道は、青いマントを夜風にはためかせながら今度こそ去っていった。哀愁漂う鬼道の背中を見えなくなるまで見送る円堂と水城。
『…サッカーを教えてくれるもの、かあ』
「そういえば、一青がサッカー初めたきっかけとか聞いたことないな」
鬼道の背中が見えなくなると2人は再び土手に腰を下ろし会話を交わす。鬼道が思い詰めていたのは不動越しに影山を見ていたからなのだと理解した水城。星々が煌めく夜空を見上げながら鬼道の言葉を反芻すると、円堂がそれとなく質問する。
『きっかけ?』
「うん。誰かに影響されたとか、いつ始めたとか。まあ話す必要も時間もなかったし当たり前か」
目を瞬かせ円堂を見た水城はその言葉に納得して、確かにそうだ、と返し言葉を続ける。
『…そうだな。サッカーを始めたのは確か…3歳だ』
「3歳!」
『3歳。だから今のところ、人生の半分以上はサッカーに費やしてるんだよね』
「そう思うと長いな…」
『きっかけは特になかったかなあ。両親がサッカー好きとかそういうあれでもなかったし。…ただ、』
「ただ?」
一旦言葉を切った水城。円堂は続きを促すように水城を見遣る。
『サッカーをする運命だったのかなあって、思ってる』
母と行ったデパートで通りかかったスポーツショップ。そのショーウィンドウに陳列されていたさまざまな競技のボールの中で、白と黒のそれだけが、水城には何故か輝いて見えた。
「…それなら、俺たちが出会ったのも運命だったのかもな!」
『え?』
「だってそうだろ?俺も一青もサッカーをやってて、だから出会えたんだ!」
『…確かにそうだね』
円堂の言葉に水城は眩しそうに目を細め、そして微笑む。
「俺たちで行くぞ、世界に!!」
『……うん行こう、絶対に』
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作者名:不二市 | 作成日時:2018年7月6日 15時