8話 ページ8
「まずは選考試合をしっかりやり遂げることだ!そしてその先にある世界との戦いの中で、お前たちがどう変わっていくか…」
唇を真一文字に引き結ぶ円堂と鬼道を交互に見る。「その答えは、お前たちのここにある!」そう言って、どんと自身の胸を叩いた。
「それは、監督から俺たちへの挑戦ってことですか?」
にっと歯を見せて笑った響木に円堂が楽しげに尋ねる。そうとも言うな、と肯定されると、円堂はぱっと鬼道に顔を向けた。
「やろうぜ鬼道!」
「…ああ」
「一青!待ってろ、俺たちもすぐに追い付くからな!!」
『あはは、あっという間に追い抜かれちゃいそうだ』
一足先に代表に選ばれた水城は円堂たちよりも前にいるのだろう。再び彼女とプレーするために、世界と戦うために、まずは選考試合を悔いのないよう全力でやり抜こうと円堂は自身を奮い立てた。
『じゃあ響木さん、私もそろそろ宿舎に戻ります。ごちそうさまでした』
「ああ、気をつけろよ」
雷雷軒を後にする円堂、鬼道、水城。閑散としたアーケードを抜ければすっかりと夜の帳は下りていて、点々と並ぶ電灯の光に照らされながら仄暗い商店街を歩いていく。
「明日は雷門中で特訓することにしたんだ!そっちは?」
「帝国でやる…ある意味俺のホームグラウンドだからな…」
円堂が表情の晴れない鬼道を気にかけ、途中で河川敷の土手に並んで腰を下ろす。なるべく明るい声で問いかけた円堂に対しても、鬼道は俯き消え入りそうな声で返した。
「どうしたんだよ、こうなったらやるしかないだろ!…不動のことは気になるけど、俺のチームだって、まだまだ謎だらけの奴がいるんだぜ?」
ぐっと拳を作り、夜空を見上げた円堂は鬼道を鼓舞する。黙り込んでいた鬼道は、しばらくして少し顔を上げるとようやく口を開いた。
「…さっき、お前と監督を見ていて羨ましくなってな」
「え?」
「お前は響木監督やお祖父さんのノートがサッカーを教えてくれる。だが俺は…」
影山零治。悪の権化のようなあの男が、鬼道のサッカーを形作っていた。今はもう決別したものの、幼少期から築き上げてきたそれは簡単に変えられるはずもない。ようやく忘れてきた頃だというのに、不動を見るとどうしても思い出してしまう。
「これまで私が手懸けた最高の作品を教えてやろう!それは鬼道、お前だ!!」
「ずっと、影山の呪縛から逃れられないのかもしれない」
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作者名：不二市
| 作成日時：2018年7月6日 15時
