所有物には名前を書いて second (ページ6)

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第四十六章ページ6

一松side

あの後少しAと話してたら、外はすでに真っ暗になっていて。

冷たい風に、一度身震いした。

『うぅー、寒いねぇ。

冬本番、って感じ。』

寒さの為か、ピンク色に染まった頬がどうしようもなく愛おしい。

一「……って、何でマフラーしてないの。」

『……忘れた。』

一「馬鹿でしょ。

今日みたいな日に使わないで、いつ使うの……。」

呆れたような溜息を吐きながらも、今日の朝は俺のせいで急がなければいけなくなった、というのもまた事実で。

自分の首に巻いたマフラーを、無造作に外して彼女の首元に巻いた。

『へ！？

い、いいのに！』

一「風邪、ひかれたくないし。

……今日はして帰っていいから、明日持ってきて。

明日はちゃんと巻いてきてよ。」

そっぽを向いてそう言うと、純粋な瞳で『う、うん。』と返された。

『……星が降りそうなくらい綺麗だね。』

一「……Aの方が数万倍綺麗だけど。」

『お世辞はいーの。』

「お世辞なんかじゃない」、と言いたかったが彼女の幸せそうな顔を見た瞬間、その言葉を飲み込む。

代わりにぎゅう、とAに抱き着いた。

『はいはい、どーしたの。』

一「……あんたの顔見たら、言いたいこと忘れた。

Aのせいだから、……暫く抱き着きの刑。」

『何それ。』

苦笑しながらも、背中に手を回してくれる。

一「外だけどいいわけ。」

『これも罰なんじゃないの？』

一「……そういうことにしとく。」

言葉で言い表せない感情が存在するなんて、数日前の俺だったら知らなかった。

それは、甘くて、でもちょっとだけ苦い。

まるでカフェオレみたいな、秘密の魔法。

これを手放してしまいたくはない。

一「……The moon is beautiful.」

『ん？

いっくん、今さっき何か言った？』

きょとん、としたAの顔。

今の俺には、まだ上手く伝えきれない。

でも、後悔しないようにいつかきっと伝えるから。

一「……いや、月が綺麗だなと思って。」

『あぁ、今日満月だもんね。

いっくん、この罰ゲーム温かくていいね。

いっくんのにおいするし、安心する。』

一「……あんまり可愛いこと言うの止めて。

襲いたくなる。」

『今日はやらないから！！』

一「……冗談、早く帰ろ。

送るから。」

俺は手を差し伸べた。

――待たせることにはなると思う。

でも、

いつか必ず伝えるから。

それまで待っていてほしいんだ。

俺の返事を。