所有物には名前を書いて second

第六十九章 ページ35

ーー数日後


『……ねぇ、助けて。


緊張しすぎで心臓痛い。』



一「何で……、俺の家じゃん。」



『だってさぁ……。』



思わず涙声になった私に、いっくんは呆れたような大きなため息をついた。



一「……そんなに心配？


母さんには、一回会ってるじゃん。





…………俺たちの結婚も、許してくれるって。」



そう、今日はいっくんのお父さまとお母さまに会いに行く日。



ここまで来るのは良かったものの、緊張のあまり玄関で尻込みしているのである。



『……それ、ホントに言ってる？』


一「ホントだから……。

行くよ。」


私の服の袖をぐいっ、と乱暴に引っ張る。


『え、ちょっと心の準備が！！』


一「……Aのこと待ってたら、日が暮れるし。」



それから、彼は視線を外して、



一「……それに、



A、ちゃんと綺麗にしてるから大丈夫。」




態度とは裏腹のきっぱりとした口調に、私は覚悟を決めた。



『い、いいよ。


うん、もう大丈夫。』


一「はいはい……。」



いっくんが、玄関の扉に手をかけ開け放った。




一「……ただいま。」


そこに現れる、緑の松野さん。


チ「あ、おかえり一松。


……と、Aさんっ！？」


『お、お邪魔します……。』



タジタジになりながら、頭を下げるとチョロ松さんは顔を真っ赤に染めた。



『ど、どうしました、チョロ松さん？』


心配して聞くと、「ひゃいっ」と変な声を漏らす。


チ「え、あ、いや……っ。



きょ、今日もお綺麗だなー、とお、思って……。



スーツも綺麗でしたけど、私服も可愛らしいです。」


ちらちらと視線を逸らしながらではあるものの、彼の褒めの言葉に嘘はないことを私は知っている。



『あ、ありがとうございます、チョロ松さん！』


チ「いえいえ！


……って、一松。顔怖いから！！」


隣を見ると、般若の顔になったいっくんが。


一「チョロ松兄さんさぁ……。


所詮ニートのくせに、人様の嫁誑かさないでくれる？


……処刑するよ？」


チ「いや、響きが本気そうで怖いんだけど！


まず、まだAさん、一松のお嫁さんじゃないだろ！！」


一「…………。


すいませんねぇ、チョロ松兄さん。


儚い期待を裏切って。」



時間が、一瞬ぴたりと止まった。



チ「え、い、一松？」


一「兄さんと話しててもキリないし……。


A、行こ。」


いっくんに腕を取られ、唖然としたチョロ松さんをおいて、私たちは部屋の中に入った。

第七十章→←お知らせcorner

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す