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「…なんでまた笑うんですか」
「いや…この状況で、そんな質問が来るとは思ってなかったから」
…確かに普通に考えれば、今の私達は先生に再び人質にされた身。こんな疑問を抱く余裕もないのかもしれない。鞄やスマホだって没収された。
それらが入った袋を見遣る。
間近で見ると袋は結構重そうで、私も結城さんと一緒に手伝えばよかったと後悔した。
「もう気づいたんだな、早いな」
先生は感心したように言った。
何に、かは訊かなくても分かった。
「別に大したことじゃない」
先生はそう前置きして、私の質問に答えてくれた。
「教室を爆破する、って言った時」
ついさっきの事なのに、話をする先生の目はどこか懐かしむように細められていた。
「他の奴らは多かれ少なかれ怯えた顔をしてたのに、蒼井だけは不思議そうな顔でこっちをじっと見てて。
こいつ俺のこと全然怖がってないなって思ったら、思わず」
そう言って、先生はまた笑う。
その無邪気な笑顔は、まるで同い年の男子高生みたいで。
触れたいな、と思ってしまった。
今なら触れられるんじゃないか、と思ってしまった。
思ってしまった私は、
ほとんど無意識に、先生の頬に手を伸ばしていた。
その手を掴まれた。
先生が、私の手を掴んでいた。
先生は眉を下げて、私の手をそっと押し戻した。
「蒼井、そろそろ教室に戻れ」
教師の顔で、そんなことを言う。
それは柔らかな拒絶だった。
かなしい、とか、くるしい、とかじゃ括れない、負の感情に押し潰されそうだった。
「…ごめんなさい」
俯いて唇を噛む。
そうしないと、色んなものが、目から口から零れてしまいそうだ。
どうして。
その一言が、唇の裏側にまでせり上がっている。
私は先生の顔を見れないまま、美術室を出て行った。
私達の間には距離がある。
教師として、生徒として、適切な距離がある。
それはとても正しいことだ。
でもその正しさが、とても寂しい。
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理音(プロフ) - 続き気になります!更新楽しみにしています!応援してます!! (2022年8月16日 0時) (レス) id: d2e2ccbd11 (このIDを非表示/違反報告)
7star(プロフ) - 初めまして!読み進めるほどドキドキして胸がギュッと締め付けられます。作者様のペースで更新されるのを楽しみに待ってます! (2020年7月15日 21時) (レス) id: f3e580ba40 (このIDを非表示/違反報告)
まろん(プロフ) - 読んでて切なくてきゅんきゅんしてます!何度も何度も読み返してます!更新楽しみにしています!頑張って下さい、応援しています! (2019年6月2日 14時) (レス) id: 2af5865e58 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さな×りお | 作成日時:2019年5月11日 0時