禁忌の箱 ページ7
耐え止まない言葉や念を一度にあびたせいか、Aはある時から体調を崩した。
食欲は無く、部屋にはいつも手付かずの食膳が置いてあった。
「食欲が無いのか」
「無い、というわけではなく……食すと吐いてしまうのです。吐くのは酷く疲れます」
そう言って手を付けない。
日に日にAの瞳は虚ろになっていき、私が様子を見に来る度「もう止めてください」と悲しい顔をするようになった。
「……貴様が私の行動を制限するな。私は私の意思でここに来ている」
「私はもう大丈夫ですから」
Aは虚ろな瞳で、感情のない笑みを見せる。
以前とは似ても似つかない。
愛らしさも、優しさもない。
嘘の笑み。
「二度と私にその笑みを見せるな」
私にさえ繕った感情を見せつけるほど追い込まれたAに、私は何が出来る。
私の意に反して衰弱していくAに、私は何をしてやれる。
どうすればAは生を願う？
どうすればAは健やかになる？
どうすればAは、また心から笑ってくれる？
「……私が殺した人、元から同盟する気なんて無かったんです」
ある夜、Aの口からそう告げられた。
何の前触れもなく唐突に話し始めたAは相変わらず虚ろな瞳のままどこを見ているのか分からない。
「あの人はただのお飾り。本当に権力を持っていたのは隠居した父親。彼らは豊臣と手を結ぶフリをしていただけ。だから、婚礼自体意味なんて無かった」
Aを忌む言葉が飛び交わない夜の空気は清らかだ。
だからだろうか、その日はいつもよりAが健やかに見えた。
「それに……私、好きな人がいたんです。帰りたかった。こんな意味の無い婚礼を止めて、自分が好きになった人のところへ帰りたかった」
初めて告げられた事実。
誰にも理解されないと思い、閉ざしていたAの本心。
ずっと聞きたかったその言葉は、開けば慄く程鋭利な矛だった。
ああそうか、Aには…………
慕っていた男がいたのか。
「……名を言えば、その男を連れて来てやる」
Aに帰りたいと思わせるほど好意を抱かれている男。
本当ならば、殺してやりたい。
そんな男は、いらない。
存在ごと無かったことにしたい。
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三楓(プロフ) - シナシグさん» コメントありがとうございます！過去編は本編の夢だけで済ませるべきかどうかで迷っていましたが、そのように言っていただけてとても嬉しいです(*´∀｀*)体調のお気遣いありがとうございます！シナシグさんも体調にはお気をつけください。 (2020年9月8日 0時) (
レス) id: 6c61a6d02b (このIDを非表示/違反報告)
シナシグ(プロフ) - 投稿お疲れ様です！今回の主ちゃんと石田さんの過去編がとても気になっていたのでとても嬉しいです！これからも楽しみにしてます！最後になりますがここ最近体調等を崩しやすい時期ですので何卒ご自愛くださいませ。 (2020年9月7日 2時) (レス) id: 597b4c80db (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三楓 | 作成日時：2020年9月7日 1時
