鬼柴田 ページ37
お市と交戦していた勝家と左近は激しい体力の消耗に加え漂う赤い霧と戦死した者の死臭で身体的精神的にも限界がきていた。
予測で出来ない動きをする魔の手に翻弄され、常に張った緊張感と疲労がじわじわと彼らを蝕んでいく。
「くそッ!埒が明かねぇ!おい勝家、このまま戦い続けても無駄なんじゃないか!?」
「……それでもお市様を食い止めなければ信長様が復活してしまう」
膝をついていた勝家は自身の顔から垂れ流れる血を拭って再びお市の前に立った。
視界は全体的にぼんやりとしているはずなのに、お市の姿だけははっきりと捉えることが出来る。
禍々しくも美しい人。
けれどもうこの世の者ではない人。
かつての自分であれば、そんな彼女でも受け入れていただろう。
今もそうだ。お市に対する恋情はあの頃から変わっていない。
その気になれば逆刃薙を自分の左胸に突き立てることだって出来る。
そうしないのは、恋情よりも勝るものがあるから。
「はぁぁあッ!」
鬼神のように猛り狂う。
迫り来る魔の手の動きを観察しながら確実に前へ進んだ。
倦怠感を背負う身体を気力だけで突き動かす。
兜が吹き飛ぼうが、防具が裂けようが立ち止まらず、遂にあと数歩といったところまで近づいた。
お市は迎え撃とうとしたが、空中に突如現れた二つの賽子に気を取られてしまった。
「勝家ェ!俺はアンタに全てを賭けるぜッ!」
スロットのように回る賽の目は赤い両目を開く。
ピンゾロ。大当たりだ。
周囲に爆発が起きたあと、怯んだお市は眼前に迫った勝家の攻撃を防ぐことが出来なかった。
一瞬躊躇った自分を押し殺して、勝家は回転させた逆刃薙で斬り込む。
……魔王の妹であるが故に悲運を辿った。
愛する夫を亡くしたあと、生きているか死んでいるかも分からない状態で思い出の城に留まり続けた。
夫の死を受け入れたあとでも、魔王復活の材料にされた。
彼女が救われるには、誰かが今一度死を与えなくてはならなかった。
「(……ああ、だからAは『見切りをつけることも必要だ』と__)」
崩れ落ちたお市の最期を見届ける。
ようやく全てのしがらみから解放された彼女は安らかな顔をしているように見えた。
「……此処ならぬ障子を違えた別の世で……再びお逢い致しましょう、お市様……」
花びらのように散っていくお市は、最期に勝家の方を向いて音を乗せない言葉を紡いだ。
それが勝家には『ありがとう。またね、柴田さま』と聞こえた気がした。
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三楓(プロフ) - 鈴さん» なんと!まさか私の作品がきっかけでBASARAを始めて下さるとは...とても嬉しいです!皇は操作できるキャラが多いので色んなキャラやストーリーに触れることが出来ると思います。是非是非やり込んでみてください!またこの度は完結まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年3月11日 3時) (レス) id: ed4329dbeb (このIDを非表示/違反報告)
鈴(プロフ) - …読んでいて ドキドキしたり、ハラハラしたり色々な気持ちになれて楽しかったです!! (2020年3月10日 23時) (レス) id: 2bf802d9a7 (このIDを非表示/違反報告)
鈴(プロフ) - 完結おめでとうございます、そしてありがとうございます!!とても面白く 更新が楽しみでした!三楓さんの三成さまが大好き(もちろん 他のキャラクターも大好き)です。また、三楓さんの作品がきっかけでBASARAを(皇から)始めました!上手くまとめられないのですが… (2020年3月10日 23時) (レス) id: 2bf802d9a7 (このIDを非表示/違反報告)
三楓(プロフ) - 紫月姫さん» コメありがとうございます!お陰様で今回も無事完結することが出来ましたヽ(*´∀`)ノキャラは基本原作に近い形でと思いながら書いているのでキャラ崩壊が不安ではありましたが、そのように言っていただきとても嬉しいです!次作も時間が許せば是非書きたいと思います! (2020年3月10日 20時) (レス) id: ed4329dbeb (このIDを非表示/違反報告)
三楓(プロフ) - 天智就佐さん» こちらこそ物語を最後まで見届けていただきありがとうございます!賞賛いただき私は涙腺が崩壊しました(´TωT`) (2020年3月10日 20時) (レス) id: ed4329dbeb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:三楓 | 作成日時:2020年1月1日 2時