黒百合の勝鬨【石田三成】参

その身を捧ぐ ページ36

「……確かに私は自分の戦い方を卑怯だと思っている。『黒百合』になることで罪から逃れようとしていたことは事実だ。だが……！」


Aが手にしていた短刀が淡く光る。
そして元の姿である徳川の家紋を模した長槍に変化した。


「ッ！」


手慣れたようにその槍を大きく振るい、紛い者を払いのけた。


「逃げてばかりでは駄目だ。いずれは『黒百合』に頼らずとも己自身で己の業を背負わなければならないと思っている。けれど私は器用じゃない。身の丈に合わない業を背負えば自らがそれに押し潰されてしまうだろう」


だから、少しずつ受け入れる。
少しずつ消化する。
何度も間違えて、何度も悩んで、何度も後悔してしまっても。


「全て償えるとは思わない。多分、死んだ後も背負う羽目になるだろう。だったらせめて生きている間くらいは最低限の業だけ背負ってあとは面白おかしく生きたいじゃないか」

「……ソレガ、オ前ノ本音カ」

「そうだ。だって今まで苦しかった。辛かった。死んだ方が楽とさえ思った。でも違う。死は望まなくてもいずれ訪れる。だったら何のために私はここに在る？……なんて大それたことを考える時もあったが、そんなことより眼前に広がるものを愛おしく思いたいじゃないか」


これまで、たくさんの人の愚行を見てきた。
醜態を見てきた。
悪癖を見てきた。
全てが忌まわしくて、穢れていた。

しかしそんな泥土のような中でも、幸福はひっそりと潜んでいた。


「いつだったかな。どっかの誰かさんは『全てを守る』だなんて宣言していたな。その時に私は『じゃあお前が取り零した分を補う』ってかっこつけた気がする。
……それがわたしなんだ。
家康の姉である私、徳川の剣である私、三成さんを放っておけない私、傍から見ればお人好しで、強欲でもある私。そして、『黒百合』である私。
一つでも欠ければそれは私ではなくなる。だから、私は『黒百合(お前)』を受け入れるよ。忌むべきその在り方を、顧みない強さを、罪から逃れるためではなく、これからは後悔しないために使うと誓おう」


それを聞いた紛い者は構えていた短刀を下へと零した。
その顔には嘲笑うような笑みではなく、自分を受け入れると言ったAの決意に身を委ねる覚悟が現れている。


「……ソノ言葉、忘レテクレルナヨ」


金色の槍が紛い者の身体を貫く。
零れ落ちた黒い液体はAの足元に黒い百合の花となって禍々しく咲いていた。

鬼柴田→←業

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