黒百合の勝鬨【石田三成】参

歪曲 ページ14

三成は徳川側の交渉人としてAが派遣されることも、それに柴田勝家が同行して来ることも、彼らが交渉の場で寝返ることも全て知った上で今回の交渉を承諾した。

予定通り、春霖と柴田勝家は三成側に寝返った。
あとは外で待機させていた徳川の家臣をAが足止めして、その後合流すれば“交渉”という名目の茶番も終わる。

吉継たちが寺から出たことを確認して、付き人に扮した三成がその後を追おうとした時、Aが中々姿を見せないことに違和感を覚えた。


「(奴は何をしているッ……！)」


本堂からは激しい物音が聞こえてきた。
何事かと三成が物陰から本堂へ近づいた瞬間、本堂の階段からAが派手に転げ落ちてきた。
傷だらけの彼女に目を見張る。


「……可哀想に。貴方は自分を囮にしてまで彼らを逃がしたというのに貴方を助けてくれるものは誰一人いないなんて……」


予定にない演者がゆっくりとAに歩み寄る。


「痛いのでしょう？無理せずとも良いのです。理性という枷さえ外せばすぐに楽になれますよ」

「理性のない人間などただの獣だ」

「ではただの人として死になさい」


瞬間、三成の中で何かが揺らいだ。
身体が咄嗟に動いて、天海が大鎌を振り上げる前に致命傷を与える。

笠の間から目を丸くしたAが見えた。
徳川領で見た時と同じ姿がそこにあった。

本堂に残された短刀を拾い、彼女の足元に投げ返す。


「手こずらせるな」


笠を深く被り直して呟いた。


「なんで、ここに……」

「さっさと来い。向こうで刑部たちが待っている」


そう言うとAは素直に三成の後に続いた。
意外だった。
まさか本当に家康を裏切ってこちら側に付いてくれるとは思ってもみなかった。


「(あのAが家康を見限って私を……)」


Aが家康よりも自分を選んでくれたことと、それを知った家康が絶望する様を想像して薄ら笑いを浮かべる。

とうとう姉弟の誓いすらも砕くほどAの気持ちが傾いたというこれ以上ない優越感を抱いて、三成たちは吉継らと合流した。

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