08' お嬢様 ページ10
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『ったく〜!あんの小僧、一体何処にいるの?!』
あの後、忍くんに何度もせがまれとうとう折れてしまった。
ここまで可愛いものにチョロいと自分でも引けてくる。
しかし、あんな適当すぎる命令のヒントは何もなく、
忍くんは打ち合わせがあると言って帰ったし、私を手伝う気はなかったようだ。
諦めて部室に戻ろうとした、その時だった。
「あの、すみません。」
『…ん。』
見ると、高校生くらいの美少女がじっと私の方を見ていた。
全身にぶわっと一気に鳥肌が立つ。
「もしかしてアイドル科の生徒さんで?」
『……い、いや…私は…』
どうしよ、吐きそう。
ほら、早く答えなきゃ。
みんな同じだって思っちゃダメって、わかってるくせに。
もう既に空気死んじゃってるじゃんか。
何か話さなきゃ、またあの頃と同じだって。
変わるって決めたでしょ。
喉の奥から潜んだ声を絞り出す。
『違い、ます…。ここでプロデューサーをしてて…。』
「プロデューサーさん?でしたら、彼がお世話になっているかもしれませんわ。」
そう言うとその美少女は微笑んだ。
「あなたは…ええと、プロデューサーさんは、朱桜司というアイドルをご存知?」
『え、ええ、勿論…。』
「ふふ、そんなに緊張なさらないで。」
言わずともわかる。
品のある笑い方。
愛嬌のある話しぶり。
きっとこの子が御曹司くんの許嫁だ。
ぱっと見、メンヘラじみた子には見えない。
でも、女子の怖いところは必ず裏があること。
表裏一体な子なんていない。
それにこの子はここにいる時点でだいぶおかしい。
まあ、金持ちはみんなどうかしてるし、この子にとってはどうってことないことなのだろう。
まさに私の苦手な、周りのことを考えないお嬢様タイプだった。
「それで……私の大嫌いな庶民的で礼儀知らずのおバカさんとは誰のことかしら?」
『?…、見当がつきませんけど…。』
「ここの学院の中にいるはずなの。彼は私よりもその女が良いそうよ。
ふふ、どんな阿婆擦れかしらね。」
先程とは変わり果てた彼女の目の色にぞっとする。
一触即発の事態に、思わず頭がクラクラした。
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作者名:さな | 作成日時:2022年9月4日 21時