俺はお前に毒された (ページ23)

今日:2 hit、昨日:1 hit、合計:11,592 hit

23 ページ23

練習を終えて、帰路につく。原たちには用があると言って別の道に足を進めた。

　街の中を歩きながらあたりを見回すと、仕事終わりのサラリーマンやOL、居酒屋の客引きなどが流れるようにおり、空気は夜の顔を見せ始めていた。ふと目についたゲームセンター。しばらく近くの書店で時間をつぶしていると、ゲームセンターから男が１人でてくる。
　書店から出て、その男の背中を追いかける。人通りの多い通りを抜け、街頭がまばらな道に出たとき、走り寄った。

「あ、すみません！」

　男の背中にぶつかり、複数の本を地面にぶちまける。下を向き、本を拾いながら、謝罪と事情を説明する。

「祖父からの頼まれもので慌てていたもので、本当にすみません」
「いいっすよ、全然」

　高くやわらかな声を意識して伝えると、大変っすね、と言いながら地面に広がった本を屈んで拾う男。その後頭部を見下ろすように立ち上がる。周囲には人もおらず、ただ薄ぼんやりした街頭の光が均等に並んでいるだけだ。
　

ーーー馬鹿が。

　ゴッと鈍い音とともに、男のうめき声が耳に届く。

「よお、この間は世話になったなあ」

　額と鼻の穴から血を流す男。その目には恐怖や怯え、憎しみや怒りといった負の感情がぐちゃぐちゃに煮詰まったようなものが宿っていた。その目に、何とも言えない快感が押し寄せる。そいつをそのまま更に人通りのない、狭い場所に引きずる。勿論抵抗されはしたが、その度にしつけてやると、大人しくなった。

「ちくしょう…」

　ゴミのにおいが鼻をつく路地裏。

「そんな怖い顔するなよ、震えちまう」
「どの口が…！」

　眉間にしわを寄せ、今にも噛みついていそうな勢いの男。その男の目を見る。何だよ、と次第に尻すぼみになっていく声に、笑いがこみあげてくる。
　その笑いをこらえ、何度もやさしく伝える。

「お前は一方的な私怨で暴行。いけないよなあ、暴力なんて」

　何度も何度もやさしく伝える。しばらくすると、言葉のたびに挟んでいた、でも、だって、が消えた。そうして、自ら地面に額をこすりつけ、ぶつぶつと何か言い始めた。

「俺は最低だ、生きる価値なんてない、俺は最低だ、ああ、なんてことをしてしまったんだ、俺は最低だ、生きる価値なんて……」

　そうして罰をのぞむものだから、俺は仕方なく手を下した。