【東京喰種】理解者 β

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「この馬鹿…！」



揺れたAの少しの隙。ほんの少しのそれさえ、この男を前にしては死に直結するほどのものになる。

目の端に捉えた男の姿に、思いの外自分の身体は速く反応した。



「…がっ…！！！」




急所から逸れるように身をひねったが、重さを軽くすることはできずに咳き込む。咄嗟に突き飛ばしたAもバランスを崩したのか、膝をついていた。




「なっ、何で…！！」




高く声を裏返し、濡れた声で叫ぶA。その声に、どうやら正気を取り戻したらしいと察した俺は、すぐさま近寄り声をかける。



「理由はいい、逃げるぞ」





間合いを取りながら、男と視線を外すことなく足に力を入れる。じりじりと詰まる距離と、Aの荒い呼吸から緊張が増していき、鼓動が速くなっていく。

一言も発さない所から、Aも逃げる覚悟を決めたのだろう。




「後ろにすぐ角がある、そこを曲がってそのまま上に行く」


地面についた手に、Aの手が重ねられる。指先にぐっと力がこもったのは了承のサインに他ならない。




「もういいだろう」




相変わらず涼しい顔で男は言葉を発する。もういい、それが「見逃してやろう」という旨を表しているはずなどない。

さっさと片付けてやるから、この間合いの取り合いも、この視線の交わりも、もういいだろうと、そういうことだ。それだけ奴にとって俺達は簡単にねじ伏せられる対象なのだろう。



「…くそが」

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