続・どうしよう、これ【歌い手】

episode37 ページ39

Aside

やっぱり、願ったことは伝わらなくて、彼女は

｢まふくんは私とさえ居ればいいの！！私といることこそがまふくんの幸せなの！！私ならまふくんがこんな女にたぶらかされても助けてあげられる、私じゃないと助けてあげられないの！！｣

と叫び、包丁をぐぐっと下げてきた。この細い女の人のどこにそんな力があるんだ。……そうだ、左手ほぼ力入んないじゃん。

お腹まで、後50センチ。……30センチ。段々と包丁が迫ってきて、とうとうお腹に触れた。そのまま包丁がお腹に潜り込んでくる。

痛い、熱い！早く来て真冬くん！！

涙目になって内心で叫んでいたら、目の前の彼女がグイッと離された。

｢傷害罪で現行犯逮捕だ｣

｢あっ、千葉じゃん……｣

口から漏れた声がとんでもなく弱々しくて。

私から彼女を離したのは一ノ瀬さん、そして真冬くんは私を地面に寝かし、

｢大丈夫、大丈夫だから……！｣

と私の出血を止めようとしていた。

｢……うん、大丈夫だよ｣

と暗くなる視界の中で真冬くんの頬を撫でた。

どうしよう、めっちゃ寒い。

千葉が何か焦って無線に話している。

｢死なないで、お願い……！｣

と真冬くんに泣かれる。

｢……こんなんで私が死ぬとでも？……大丈夫、『僕は死にましぇん』だからね……｣

と古いドラマの真似をする。血が流れすぎて頭が変になってるのかもしれない。普段はこんなことしない。

泣いている真冬くんを照らす赤い光と、サイレンの音。

ああ、眠気が限界。

｢ごめん、ちょっと眠いから寝るね……｣

と私は目を閉じた。

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