一番星 ページ9
Aが俺の腕の中に居て、不可抗力とはいえ抱き締めている状態になっていることを少し遅れて自覚して、俺は内心混乱しながら彼女からパ、と手を離して「悪りィ」と小さく呟いた。喉が詰まったかのように声が出しづらくて随分抑えた声になってしまっていたけれど、波の音が静まったタイミングだったのでAの耳にはちゃんと俺の言葉は届いていたらしい。「い、いえ」と彼女は応えた。その声も微かな声で、その声が俺の耳に届いた次の瞬間には波の音がまた戻ってきていた。その短い会話のために作られた静寂だというような。
距離が離れて、一瞬だけ触れていた彼女の体温が薄れていって、それが名残惜しかった。こんなこと言えやしないし、顔にも態度にも出せないけれど。特に何ともないようなフリをして、俺はうなじの辺りをなんとなく撫でた。
「わ、私もごめんなさい…躓いてしまって…」
「いや、転ばなくて良かったよ」
視線は合わないままで、そんなやり取りをして。それからまた会話が途切れて、Aが自然な動作で海の方を見つめ出したので、俺もそれにつられるように海を見た。夕日がさっきよりも西側に傾いてきていた。茜色はそろそろ濃紺色と交代することだろう。
東側の空からやって来る夜の気配を感じていれば、Aは「あ」と声を出した。そして、空の一点を指差して、こちらを見た。まだぎこちないというか、さっきのあれの余韻を残しているような顔をしているけれど、その表情には笑みが浮かんでいた。
「星がありました!」
「ん?あ、ホントだ」
そう言われて、彼女の指が指し示す方に目を向けると、確かにそこには小さな光がひとつ、夜を迎える空に一足先に浮かんでいるのが見えた。
「一番星ですかね?」
「そうかもな」
星がひとつ見えてくると、一気に夜が近付いた気がした。ベタつく海風が頬を撫でて、深呼吸をするようにして潮のにおいを胸に溜めてから吐き出して。それから俺は言う。
「そろそろ帰ろうか。もう夜になる」
「そうですね」
そう言葉を交わしたときには、もうどぎまぎした感じはなりを潜めていて。彼女が頷いたのを見ると俺は海に背を向けて階段の方に歩き出した。Aも俺の後ろをついてきて、彼女がまた慌てて転んでしまわないように、ゆっくりとした歩調で歩いた。
「銀さん」
「ん?」
と、Aが俺の名前を呼んで。隣に並んできた彼女の顔を見据えると、柔らかく微笑んで。
「海、連れてきてくれて、ありがとうございました」
とっても綺麗でした、と。そう言った。
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ピピコ(プロフ) - 獅子の子さん» しーちゃん!いつもありがとうぅぅぅ忙しい中来てくれてありがとうねぇぇえ返事遅くてごめんんん!!シリアスシーンは私もHPをすり減らしながら書いてるからね(笑)ちょっと更新お休みするけど戻ってきたらまた頑張るので、よろしくお願いします!!! (2019年8月6日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - ピー姉さん!続編おめでとうございます!リアルが忙しくてなかなかこっちに顔を出せなかったんだけど、久しぶりに来てみたら続編まで出てて...!嬉しいの極みです(≧∀≦) ピー姉が書くシリアスシーンの緊迫感が好きだぁ...無理せずに更新ファイトじゃ! (2019年7月14日 10時) (レス) id: af0bbdf801 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 桜さん» 追いつめられたときのキャラを書くときは自分でもダメージを負います(笑)二人の物語が今後どの方向に向かっていくのか、見守っていてくださると嬉しいですれ応援ありがとうございます!(*^^*) (2019年7月8日 0時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - わわわっ……。もうー、これからどうなっていくのかドキドキですっ! 銀さんあんまり自分を責めないでっ。これからの展開がものすごく楽しみですっ! 応援してます! (2019年7月4日 18時) (レス) id: f38863f7c8 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 桜さん» 桜さん!ありがとうございます!!ですね!銀さんと言えば銀色です!夢主ちゃんは何色がいいかな…。私も優しい銀さんがめっちゃ好きですし繊細な夢主ちゃんと不器用ながらも接してくれるのがすごくツボです(笑)そう言って頂けるとやる気が出てきます!頑張ります! (2019年6月5日 0時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2019年6月1日 22時