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第三百三十五夜 葛藤 ページ20

〜黄香side〜



「……――貴女もあの日、何か失ったんですか?」


あれこれ考えているうちに、私は女性にそう問いかけていた。
私は慌てて口を塞いだ。

……私、今なんて………?


「っ!ご、ごめんなさい。私、そんなつもりじゃ…」


私は慌てて訂正する。
失った人にとって、失った時のことを思い出すのがどれだけ辛いことなのか私は知ってる。

………なのに。

しかし、女性はそんな私を見て、怒ることなく、……というより、悲しげな目で私を見つめた。

そして再び悲しげに目を伏せると、少し苦笑いをしながら口を開いた。


「……いや、いいんだよ。失ったものはもう戻ってこない。悔やんでも、仕方ないからね」


女性はそう言うと、懐から一枚の紙を取り出した。
紙には三人の人が描かれており、恐らくこの女性の子供が描いたものだと推測できた。

紙は茶色に変色し、ぐしゃぐしゃだが、女性は大事そうにそれを見つめていた。


「……あの日、私の夫と娘は水浄村の兵に殺されたんだ。私も殺されかかったのだが……不幸なのか幸運なのかは分からないが、生き残ってしまったよ」


そう言い、女性は紙に目線を落とした。


「………恨まなかったんですか?夫と娘を殺した兵士のこと」


そうだ。
夫と娘を殺されたんだ。
きっと運命を恨んで堕転してるに決まって……


「…――あはははっ!お嬢さん。随分と面白いことを言うんだね」

「……えっ?」


急に笑い出す女性を見て、私は唖然とした。
唖然とする私をよそに、女性はくつくつと笑っている。


「勿論恨んださ。復讐しようとも考えた。

……でも、思ったんだよ。








"こんなこと、夫と娘が望むのか"って……」


女性がそういった瞬間、私は心臓を鷲掴みされたような気分になった。

心臓が五月蝿い。
息が、苦しい。


「"人を呪わば穴二つ"っていうだろう?それに、夫と娘は人を傷付けるのが嫌いだったからね……―――って、お嬢さん!何処に行くんだい!?」

「お、おい!黄香!?」


まだ林檎の品定めをしていたサーリエの手を引っ張り、女性の元から離れた。
私は胸元を抑え、歩くスピードを速めた。


やめてやめてやめて!!

復讐だけが私の生き甲斐だった。
復讐することだけが父上と母上のためだとずっと思っていた。



"こんなこと、夫と娘が望むのかって"



「………っ」



………もう、分かんないよ。

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厨二乙(プロフ) - ゆいさん» コメントありがとうございます!明日までには続編をつくる予定です (2016年8月10日 15時) (レス) id: 7e18410e1e (このIDを非表示/違反報告)
ゆい(プロフ) - 続きがきになります(*´∀`)ワクワク更新頑張ってください(*´ω`*) (2016年8月10日 15時) (レス) id: 4f1d10fb33 (このIDを非表示/違反報告)
亜美 - そらさん» つまんないは言い過ぎじゃない?もう少し言葉を選んだほうが良いと思う (2016年8月8日 23時) (レス) id: f2ab9f97c5 (このIDを非表示/違反報告)
亜美 - そらさん» つまんないは言い過ぎじゃない?もう少し言葉を選んだほうが良いと思う (2016年8月8日 23時) (レス) id: f2ab9f97c5 (このIDを非表示/違反報告)
そら(プロフ) - 厨二乙さん» 良かった!楽しみにしてます!(((o( ˙-˙ *))o)))! (2016年8月5日 20時) (レス) id: a582850307 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:厨二乙 | 作者ホームページ:http://.  
作成日時:2016年4月24日 21時

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