真面目な僕と不真面目な君【チョロ松】

１８話 ページ20

血の匂いが充満する路地裏

息を整えるために静かに目を瞑る



聴こえる呻き声、鼻をつく鉄の匂い

慣れてるはず
慣れてるはずなのに…


どうしてだろう、初めてのような…そんな感覚なの



「……あの日、みたい…」

初めて負けを知った日
それまで私に勝つ人なんているはずないと言われていたし、私もそう思っていた


でも、違った


上には上がいるように、私は一度だけ負けた

もう一度あの人に会って勝って
その時に初めて好きと伝えられる気がする

だから喧嘩をしていた


なのに、今は…
どうでもいい


「A！！…A………？」
「チョロ松………私…」

振り返ろうとすると、ズレた服を上げてくれる

「………背中」
「……あぁ、傷でしょ？……これね、初めて喧嘩した時につけられたんだ」


正確には初めて喧嘩をするきっかけになった




「痛かったんだ、それ。信じられなかったんだ。私が狙われてるなんて思わなかったから」
「……帰ろう、トド松には事情は伝えてあるから」
「…うん………そうだね、またお風呂はいらなきゃ」


認めて欲しかったの？違う気がする

私は頭が弱いから、弱いなりに強くなろうとした




喧嘩しかなかったんだ


元々才能があったらしくて、すぐに名を轟かせることになった


『死神』なんて



「私は…なんで喧嘩してるんだろうね？」
「楽しいからじゃないの？」

血がついているのがバレないように上着を被せてくれたチョロ松
それに少し嬉しさがこみ上げてきた


私なんかいなければ、とかずっと思ってた

お母さんが言ったの

『お前なんか、産まなければ…』

小さかった私にその意味は分からなかった
でも、拒絶されてることは感じられた


愛されたかった
愛したかった
泣きたかった
泣けなかった

結果的に喧嘩は愛されない

恐怖からくる主従
それは私に穴を開けていくばかりで、その穴を埋めるためにまた違う穴を開ける


それの無限ループ


「…………チョロ松、お願いがあるんだけど…きいてくれる？」
「………………一回、だけ」


旅館に着いて、服を脱ぐと、動揺したように下を向く

「……傷…新しい」
「うん………これナイフ？」
「多分。それ、えっと……手当てして欲しいんだけど…」
「はぁ！？そんなことならいくらでもするけど？一回じゃなくてさ」

え、そうなの？と振り向こうとすると本気で止められて少し腕が痛い

「今何も着てないんだから振り向くな！」
「お風呂であんなことした人が言えるセリフじゃない」

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