カラッポ【カラ松】

Eighteen episodes sideカラ松 ページ21

愛してる、と嘘をつく

honeyは嫌いじゃない
でも、過去に問題がありすぎた

今はもう忘れられているし、傷跡も消えているが、honeyはリスカをしている


俺も最初は気づかなかった


陽だまりの中、あんなに純粋な笑顔で笑うladyがまさか、リスカをしているだなんて誰も思わないだろう

初めて知ったのは、高校２年の冬
もうすぐ３年に卒業が迫り、学校中が慌ただしかったのを覚えている

美術の課題を終わらせていなかった俺は、一人美術室にこもって作業し続けていた


黙々とする中、ガラッと扉の開く音がする
驚いて顔を上げると、いつもクラスの中心で笑っている女の子が


「あ、え〜…え〜っと……」
「……A。A、A」

小さく呟いたAは、棚からカッターを取り出して俺を振り返った


「……私がここにきたことは、誰にも言わないで。ましてや、カッターを借りているなんて、絶対に口外しないでね」


その時、有無を言わせない迫力があった


「あ、あぁ…了承した……」
「……それなら良いの」


屋上にいるから。と颯爽と出て行ったA
その時はただ、綺麗なgirlだ、としか思わなかった


下校時刻


もうすぐ門が閉まるので、カッターを治すために屋上にAを呼びに行く


ガチャ

「あの、A…＿＿＿＿」


ぽたっと滴る赤い液体
驚いた顔をして俺を見つめる大きな瞳

長い髪を一つにまとめた束が、風に吹かれて揺れた


「…………え」
「な、カラ松…」


何をしてるんだ、と頭で何回も問うが、口から出てこない



「……………見た？」
「なんのことだ」
「……これよ」


グッと差し出された細い腕
そこに浮かぶ赤い傷跡

そこからジワッと流れ出る赤い球が、白い肌と対比して美しい


「…………綺麗だ」
「え？ちょ、あなた何言って…」
「何に悩んでいるのか知らないが、もうこれはやめたほうがいい。Aの体に傷が付く」
「っ……そんなこと、どうだっていいでしょう！？誰も心配しないわよ、うちの家！お父さんは弟に暴力ばかりふるって、自分のことばっかり！弟は弟で、やっぱり自己防衛しかできないまだほんの子供だもの！」

一気に喋ったからか、はぁはぁと息をする
白くなった息が寒空に消えた


「私は弟を守るけど！やっぱり私も両立なんてできない！自己防衛か、他人防衛か…どっちかしかないんだから！！」


拳を握りしめるAを手を伝った血は、Aのスカートを濡らして行った

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