近くて遠い、その距離を。 (ページ11)

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その紙袋は某バームクーヘン専門店のもの。さすがの人気店だし、めちゃくちゃ高い。菓子パのとき貰い物とかで沢山あるからと出してくれたものの中に入っていたのだが、全然パサつかずしっとり、そしてずっしりしていてとにかく美味かった。高いだけあるなぁ、と実感したものだ。それを全員分って……総合病院の娘、財力が恐ろしい。

「Aほんとよくこんな金出したな……？」
「えっと？」

首を傾げたに～ちゃん。そういえばフルネーム知らなかったんだっけ。

「これの差出人の名前です。南波A」
「なんとかななみちゃんだと思ってた……」

なんば、とか、みなみ、とか読み間違えられることはざらにあったらしいけど斬新な間違いだな。そう思いながら手に取ったバームクーヘンはやはりあの時と同様にずっしりと重たかった。しかもなんかでかい。なんでこんなでかいの買ったんだよA……ほんとおいくらするんだこれ……大事に食べよう……
に～ちゃんに手紙と一緒にバームクーヘンを渡す。それを一度置き、彼は手紙を開いた。

読み終わったのか少しだけ顔を上げる。

「この差し入れは絶対ささやかじゃない」
「めっちゃわかります」

全力で同意する。いいのかこんなにたくさん。

「あのさ、このAちゃん？」
「はい」
「車？バス？」

なぜそんなことを聞くのだろう、そう思いながら、俺は答えた。

「多分歩き……？」
「えっ、こんな遅くに？危なくないか？」

時計を見てみれば、短針はてっぺんをとうに回っている。しかも春とはいえ真っ暗だ。

「えっ……あっ、確かに。ちょっと電話かけてみますね」

取り出したスマホの待ち受けは、Aたちいつめんとの中学の卒業式で撮ったもの。に～ちゃんの何故か暖かい視線を感じながら、メッセージアプリではなく普通に、もう慣れた番号に電話をかけた。