スタカンチク ページ39
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店を後にした一向は、ようやく目的地の隣町と到着した。随分と長い間歩いたため、少し休憩していこうというAの提案により、灰崎とヒロトは海がすぐ目の前に見える階段に座っていた。
観光客の憩いの場としても知られるこのスポットは、平日の昼間でも賑わいを見せている。
「おまたせ、二人とも!」
ぼんやりと景色を眺めていた二人の頭上から声が降りかかる。灰崎とヒロトが、ほぼ同時に首を後ろに捻って顔を上げると、アイスクリームを三つ手に持ったAの姿が目に映った。
「はい、灰崎くん。ヒロト」
「あぁ」
「サンキュー」
その場に屈んで、落とさぬよう差し出したアイスクリームを左右から受け取る二人。渡し終えたAは、一度立ち上がるとアイスクリームをひと舐めし、ぽっかりと空いた二人の間に腰を下ろす。
「んー。ひんやりして美味しい。こうしてゆっくりする機会も今までになかったから、なんだか新鮮ね」
「だな」
蕩けそうな美味しさに、Aが片手を頬に添えて呟くと、左隣に座っていたヒロトからも同感の声が上がる。滑らかでコクのあるアイスクリーム。
ひとたび口に含めば、適度な柔らかさと滑らかな食感が口の中に広がり、爽快な気分に満たされた。
「にしても変わった形してるよな、このアイス」
「なんでも、ロシアのアイスクリームはこれが普通らしいわよ。ほら、ガイドマップにも書いてある」
当然のように灰崎へアイスを押し付けたAは、鞄から取り出した観光マップを広げて、ロシア名物でもあるアイスの説明が書かれた場所を指でさす。
「ロシアでは、このカップのことをスタカンチクって言うみたい。日本とは味も形状もやっぱり少し違うのね」
「ほー…」
Aが文字にそって指を移動させていくのを隣から覗きながら、あまり興味がなさそうにアイスを舐めるヒロト。今彼らが食べているものは、ロシアでも定番のアイスクリームらしい。
甘すぎず、さっぱりしていて濃厚。そして、バリエーションも豊富。ロシア人からも愛され、慣れ親しまれているようだ。
「ロシアの人は季節問わずアイスクリームを食べる習慣があるみたい。冬でも大量に売れるんだって」
「なるほどな、そういうことかよ。どうりでアイスクリーム屋が多いわけだぜ」
片側にいた灰崎が納得したような声で言い、静かに目を伏せる。彼の言うように、ロシアは至る所にアイスクリーム売店が設置されていた。停車駅から街中、建物内など様々だ。
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作者名:小雪 | 作成日時:2019年9月18日 14時