見えない優しさ ページ40
❀
｢で？お前は何味頼んだんだよ｣
ヒロトが何となく訊ねるとAは、きょとんとした顔を見せるてからガイドマップを膝の上に置く。そして押し付けていたアイスを灰崎から受け取った。
｢ストロベリーよ｣
｢ガキが選びそうな味だな｣
｢ガキで結構｣
何の味を選ぼうと人の勝手だ。一々小馬鹿して鼻で笑ってくるヒロトに、Aは眉間を寄せる。そして彼の持つアイスを一瞥すると｢チョコバニラも似たようなもんじゃない｣と言い返した。
｢灰崎は抹茶か？｣
｢彼は抹茶じゃなくてピスタチオよ｣
灰崎の代わりに、Aが答える。｢見た目は似てるけどね｣と付け加えれば、ヒロトはあまり関心がなさそうに鼻を鳴らし、溶けかけるアイスを舐めた。
｢おい｣
ヒロトとは反対側にいた灰崎からAへと声がかけられる。頭をヒロトへ向けていたAは、灰崎に呼ばれると｢なに？｣そう言って首を後ろに捻った。
｢左手貸せ｣
｢え、なんで｣
｢いいから貸せ｣
｢ちょ…っ！？｣
｢灰崎、てめぇ！｣
躊躇するAに苛立った灰崎が、アイスを持たない左手を掴み、引き寄せた。頬を赤らめて戸惑うAの隣では、ヒロトが主人を取られた猫のように目を尖らせ、唸り声を上げて灰崎を威嚇している。
｢ったく…怪我の管理もまともにできねぇのか？｣
｢えっ…｣
｢菌が入ったりでもしたらどうすんだよ｣
彼女の手の甲や指に残る痛々しい傷跡を見つめて説教じみた言葉を吐く灰崎。店で買ったレジ袋から絆創膏(クマぞうがプリントされたデザイン)を取り出すと、Aは言葉を失い目を瞬かせる。
｢あの…灰崎くん？｣
｢なんだよ。今はじっとしてろ｣
｢ごめん、でも。さっき買ったのってもしかして…｣
Aの言いたいことが何となく理解出来た灰崎は、既によれよれとなっていた絆創膏を剥がすと、新しいものを取り出して｢ちょうど切らしていたからな｣無愛想な声でそう告げた。
｢切らしてたって…それ常に持ってるの？｣
｢悪いかよ｣
｢悪くは無いけど……｣
こう言っては失礼だが、灰崎は強面な顔に似合わず意外とクマぞうなど可愛らしいモノが好きだったりする。Aは、苦笑した顔でアイスを舐めた。
｢指伸ばしてろ、ちゃんと貼れねえだろうが｣
｢あっ…うん。ありがとう｣
自然に曲がっていた指をぴんと伸ばして、最後のアイスを口に頬張る。火照った頬の内側から冷たいアイスが口の中に広がるが、熱はおさまるどころか灰崎の指が手に触れる度に上気した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 132人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小雪
| 作成日時：2019年9月18日 14時
