8話 ページ9
.
ポケモンたちとのメンテナンスを終え、
明日のスケジュールを確認する。
その頃に、鼻をくすぐるいい匂いがしてきた。
「卵とネギと、スパイシーな実をトッピングしてみた〜」
ダンデ「おぉ!すごいぜ、キバナたちも欲しがりそうだ」
「味は保証するよ、インスタントだしね」
2人分の箸を出し、ローテーブルの前に並んで座る。
音が寂しい気がしたので適当にテレビを付けることにした。
ガラルの文化やクイズ番組、ニュースなどが切り替わっていく。
「……チャンネル何周するの?」
ダンデ「普段テレビ見ないからな…バトルしか…」
「はは、今の時期はエキシビションもやってないらしいね」
Aは麺を啜って笑う。
前からバトル云々には疎いらしく、
“あの事故”が起こる前から誘ってもバトルは断られていた。
……あの事故、か。
ダンデ「なぁ、A」
「ん?」
ダンデ「怒らないで聞いて欲しい」
「え、怒るようなこと言うの?」
ダンデ「あぁ」
「開き直るなぁ……保証しないけど、うん。
いいよ。なに?」
箸を置いてこちらを向いて座り直すA。
キテルグマに埋もれてしまうほど小さな体で
一体どんな思いを抱えているのだろう。
きっと俺には知る由もなくて。
俺は一度ベッドに向かい、
そこで温めていたタマゴをAの前に差し出した。
「…え」
ダンデ「このタマゴをAに託したい」
瞬間、彼女の表情から光が消える。
冷たく鋭い眼差しに、一回り大きい俺ですら
すくんでしまう感覚だった。
「…ダンデくん。私は、」
ダンデ「すまない、わかってる。
君が“あの事件”以来ポケモンを遠ざけていたことも」
「じゃぁッ、」
ダンデ「ただ、友人として、君を救うきっかけが欲しかった」
「……、…」
ダンデ「君の考えや想いを無下にしたことは、その、すまない…
でも、どうか考えてみてはくれないだろうか」
もう一度、彼女の胸元にタマゴを差し出す。
怖くて顔が見れない俺は、なんて情けないんだろう。
怒られるのも、嫌われるのも、怖い。
でもそんなの……覚悟していたはずなのに。
ダンデ「だって、…ポケモン好きだろ?A」
「……」
テレビの向こうで、拍手と歓声が聞こえてきた。
どうやら出題者の問題に誰かが答えたらしい。
この部屋にはあまりにも似合わない笑い声が聞こえた。
.
7人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:曙ぼあ | 作成日時:2023年9月11日 21時