木槿のふたり (ページ39)

今日:3 hit、昨日:7 hit、合計:17,117 hit

エレベーターの会話ページ39

ゆっくりと上がっていくエレベーターの中。
ただでさえ静かなはずのモーター音だけが響く。

「松本さん、最近ちゃんと休めてますか？」
「え？」
びっくりしたように、こちらを見る松本さん。

「色んなところで見かけるので…」
「まあ、年末だしね」
「あまり無理しないで下さいね」

そんな会話をしていたところで、ポーン、とエレベーターが到着した。

「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」

ドアの鍵をガチャ、と開けたところで「ねぇ、」と呼び止められた。

「はい？」
「ツアー終わったらさ、また作ってよ手料理」
「え…」
「ほら、今あんまちゃんとしたもの食べれてないし、じゃ、おやすみ」
「あ、おやすみなさい…」

バタン、とドアが閉まる。

さっきまでの締めつけられるような胸のくるしさが、いつの間にかなくなっていて。

「はは、ほんと……単純だ…」

涙で滲んだサンタさんが、こちらを睨みつけているように見えた。