第103章 ページ5
どうやら私は自分が思っていたよりも長い間眠っていたらしい。
確かに、言われてみれば肌に触れる空気がひんやりしている気がする。
「どこか痛いところはないか?」
私を抱きしめていたトントンを引きはがし、グルッペンが尋ねた。
それに首を振ることで答えを返す。
ゾムが言うには、もう傷はほとんど治ったらしいし、特にどこかが痛むという事は無かった。
グルッペンが私の頭を撫でる。
珍しく手袋を付けてない、彼の手の感触。
頭を撫でて……そのまま頬の方、というよりは、目元に触れた。
その指の腹から感じる体温はちょっと冷たい。
「…………すまなかった」
『謝らないでよ、聞き分けが無いなぁ』
「……でも、お前から視力を奪ってしまった」
『やったのはグルッペンじゃないよ。もういいの』
「…………」
『今は、ありがとうって言わせてよ』
重くなりかけている空気を吹き飛ばそうと笑ってみる。
みんながどういう風に反応したかはわからないけど、少なくとも悪化したってことはなさそう。
「食事の準備をしよう。当分食べてないだろう」
そう言ってくれたグルッペンの声がとても優しい。
表情が見えなくなってしまった分、声に含まれる感情がよくわかる。
私は用意された車椅子でみんなと一緒に食堂へ向かった。
歩かないで移動する、その不思議な感じを楽しむ。
半面、私はもう歩くことも出来ないのだと現実を悲しんだ。
だけど、まだすべてを失ったわけではないから。
・
食堂は時間ではないからか、ほとんど音が聞こえない程人が居なかった。
食べやすいものを用意してくれ、どう食べようか悩んでいると、みんなではない、だけど懐かしい大好きな香りが漂う。
これは……
『……無事、だったんですね!』
「A様……申し訳ありませんでしたA様ッ……!!」
「謝らないでください……貴女は私を助けてくれたのに」
そこまで言うと、彼女、ショートボブさんは私に抱きついて、静かに鼻をすすり始めた。
私も彼女の背中に手をまわし、さする。
みんなに抱きしめられるのとは違う。
女性特有の温かさと柔らかさ。
しばらくの間、みんなは黙って私達が泣き止むのを待っていてくれた。
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リノ(プロフ) - うじうじ抹茶さん» ありがとうございます……!!!頑張りますね!! (2017年12月10日 17時) (レス) id: 02182e081c (このIDを非表示/違反報告)
うじうじ抹茶(プロフ) - 良い話・・・。目から汗が出てきそうですわ。更新頑張って下さい! (2017年12月10日 15時) (レス) id: b6ff471b34 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リノ | 作成日時:2017年10月21日 13時