平穏な日々、夢中 (ページ4)

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第１０２章ページ4

意識がスッと戻ってくる感覚。

「A?」

ゾムの声が聞こえる。
落ち着く、声。

目を覚ましたのに視界は真っ黒で、朝なのか夜なのかもわからない。
その理由をおぼろげに憶えているが、今必要な記憶ではないと塞ぎこむ。

「……A!」

私の手を握るゾムの力が強くなった。
でも、痛くない。
大好きな人に触れられることがこんなにも嬉しく感じる。

『……ゾム』

名前を呼ぶと彼はよかった、と何度も呟く。
本当に心配してくれていたんだ。

その後、しばらく私の体調を確認したり安心したような声を漏らしていたが、インカムでみんなへ私が目を覚ましたと報告した。
みんなと会うのがとても久しぶりに感じる。

謝らないと。
謝って、前みたいに戻ろう。

・

少しして、部屋の外から足音が聞こえてきた。
走ってるのか、音も大きくて近づいてくるのも速い。

けたたましい音で、恐らくドアが開かれた。

私の名前を呼ぶみんなの声が聞こえる。
重なりすぎて誰がいるのかわからなかったけど、多分みんないる。
音のした方を向いてなんて言葉をかけようかと考えたところで、誰かに勢いよく抱きしめられた。

上体を起こしていたから後ろに倒れそうになったけど、その人が背中に手をまわしていたお蔭で何ともない。

誰だろう、グルッペンかな。
何となく、そう思ったところで包まれたその香りが誰のものか理解する。

「……」

『トントン……?』

「……」

それは、他でもない自分の上官。
普段、みんなを諫める立場であるはずの彼が、今はただ黙って私を抱きしめている。
耳の横にあるであろう彼の口からは吐息の音と

すまんかった、の言葉。

その一言で、彼が私の軽はずみな行動、誤りのせいでどれだけ思い詰めていたかを感じさせられた。
謝るのは私の方なのに。

『私こそ、ごめんなさい。……ごめんなさい』

「謝る必要なんてない。Aが謝ることなんて、ないんや……」

優しい、苦しそうな声色。
そっと撫でられる頭。
トントンの手の温かさがほんのり伝わってくる。
恐らく、他の誰よりも長い時間を共にした彼の匂いは、今の私にとって何よりも落ち着ける。

私は、少し重く感じる腕をトントンの背中に片腕だけまわす。
もう片方はまだ点滴が繋がっているから。

『……うん、ありがとう』

ただいま。

そう言うと、トントンは私の肩に顔を埋めた。
くすぐったくて、温かい。