第104章 ページ6
私の世話係となったショートボブさんに着替えなども手伝ってもらい、一段落落ち着く。
みんなそれぞれ仕事があるから、とどこかに行ってしまい手持ち無沙汰になるのかと思っていると、不意に車椅子が動き始めた。
誰が押しているのかも、どこに向かっているのかもわからない。
少しだけ不安になってグリップを握っているはずのその人の手に触れる。
まあ、これだけで誰なのかを当てられる特技なんて持ち合わせてないのだけど。
「……何暇そうな顔しとんや。お前にも仕事あるやろ」
悲しそうで不機嫌そうで優しい声は相変わらず。
『仕事……でも、私はもうトントンの手伝いも出来ないよ』
「そうやったとしても、俺の補佐やろ」
『……まだ、そう言ってくれるの?』
「まだも何も、ずっとや。……ずっと、死ぬまで」
私は意外で仕方なかった。
もう何もすることが出来ないただのお荷物になり下がった私を、今までと変わらすに傍に居させてくれることが、まだ必要としてくれていることが。
嬉しくて、仕方ない。
『うん……ずっと』
そうだといいね。
・
数日後、みんなは仕事で城下町に行っていた。
私もついていくことになったんだけど、離れた所。
城下町の中央広場は大勢の人の囁き声で埋め尽くされ、いつもと違う雰囲気。
『……』
見えない。
と、人々の声が歓声に変わる。
微かに人々から聞き取れるのはグルッペンの名前。
「我らに牙を向くもの。我らの平和を脅かすもの。我らの道を阻むもの」
グルッペンの声が聞こえる。
久しぶりに聞く、民衆の前での総統としての彼の声。
「敵は全て排除する」
静まり返る民衆はグルッペンの声に耳を傾けている。
誰も異を唱えない。
「正義、悪。そんなものが必要だとは思わない」
不思議と彼の声は落ち着いていて、親が子に本を読み聞かせているような安心感。
台本を用意しているわけではないのにあれだけ淡々と言えるのは……きっとあの言葉が彼にとって当たり前だから。
「敵か、味方か。それだけだ。敵となるものには等しく裁きを下す」
…………。
刃物の擦れる音。
みずみずしい何かの音。
観衆の歓声。
「行こうか、Aちゃん」
そう囁いたロボロに車椅子を押されるまま。
私は静かなひんやりとした路地裏に消えていく。
『……今、何があったの?』
「何でもないよ。ただの催し物だから」
Aちゃんは、知らなくていいことだ。
そう言った彼の顔も、私は見ることが出来ない。
160人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
リノ(プロフ) - うじうじ抹茶さん» ありがとうございます……!!!頑張りますね!! (2017年12月10日 17時) (レス) id: 02182e081c (このIDを非表示/違反報告)
うじうじ抹茶(プロフ) - 良い話・・・。目から汗が出てきそうですわ。更新頑張って下さい! (2017年12月10日 15時) (レス) id: b6ff471b34 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:リノ | 作成日時:2017年10月21日 13時