【カノ】私ね、カノのこと大嫌い4【カゲプロ】

最終話.カノ、私ねカノのこと大嫌い。 ページ13

幸せな時間はあっという間に過ぎていくのを、身をもって感じる。
ふと、目を向けた病室の窓には青く生い茂る緑の葉が揺れて、夏の訪れを感じさせる。
体はもう、動かすのがやっとで、終わりが近いことは誰の目にも明らかだった。

だけれど、毎日みんなが会いに来てくれる。それが、何にも変えがたい幸せで、私は毎日が幸福だった。

「A、やっほ。」
面会の時間が始まるとすぐに、カノが病室に訪れた。ベッドサイドの椅子に腰をかける。
「修哉、昨日ぶり。来てくれて、嬉しい」
笑顔が溢れるのを感じつつ、カノに手を伸ばし、ぎゅっと握る。
するとカノは照れたように笑った。
「なんかほんとに、A素直になり過ぎて、僕は毎度たじたじだよ」
そんなカノが可愛くて、握った手にキスをしてみる。
そして、
「長年嘘つきのいじっぱりしてきたから、きっとその反動だね。」
と、ニシシと笑うと、仕返しと言わんばかりに、むにっ、と唇が重なった。
そのまま少し啄むように唇が動き、離れる。
そして、目があって、柔らかく笑うと
「お互いに反動がすご過ぎて、バカップルみたいになっちゃったね。」
と、わたしの頬を片手で摘んだ。

(たしかにほんとに素直過ぎて周りからしたらバカップルみたいなのかな)

あ、それじゃあ、と。

「久しぶりに反対言葉ゲームでもする？」

提案すれば、

「あ、それいいねやっちゃおう。」

と楽しそうにカノが賛成した。
ただし能力は使わないという条件でいつもどおり進めていく。

「カノは、ブサイク。」

「Aは、ほんとに大人っぽい。」

「カノは、背が高い。」

なんて、軽口を叩きながら、軽快に進めていく。そして、私の番になって、言い慣れた言葉を紡いだ。



「私ね、カノのこと大嫌い。」







私ね今、本当に幸せなの、カノ。
もうすぐ死んじゃうけど。あなたを置いて行っちゃうけど。
ほんとにごめんね。
でもね、だからこれで、伝えたいな。
嘘つきな私の、最大のラブコールだから。
嘘つきな私たちの、積み上げてきた愛だと思うから。
反対言葉で伝えるね、大好きだって、いつだってあなたに。







窓の外から、セミの声が聞こえた気がして、みんなの夏はどんな夏になるかな、なんて、小さく笑った。

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