華の牙【朔間零】

アクトレスの追憶 (6) ページ43

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ユウに連れられ、初めてやってきた中学校。



「ねえ、A……クラス違うけど大丈夫？」

「うん、大丈夫だよ」



クラスの扉の前で心配そうに目を細めるユウに、Aは綺麗な笑顔を向ける。途端に、中からざわめきが聞こえてきた。「誰あの美人！？」とか「あんな人いたっけ！？」とか。

ユウにひらひらと手を振り、Aはクラスに入っていく。そして、大きく息を吸った。



「おはようございます！」



黒板の前で、Aは大きな声で挨拶をする。クラスメイト全員に聞こえるように。自分の存在を知ってもらうように。

みんなが驚いて注目する中、Aは彼に教えてもらった、偽りの笑顔を貼り付ける。



「1年からずっと不登校だった、観月Aです。お家のことで色々あって、今まで登校できなかったけど……その分、これからみんなと仲良くしていきたいです。なのでよろしくお願いします……♪」



魅力的な笑顔を浮かべ、少しの嘘を混ぜた自己紹介をする。それだけだった。

＿＿＿＿＿しかし、それが全てだった。


しんと静まり返った教室が、次の瞬間には爆発的な大声援に震える。「よろしくね！」と声をかける人もいれば、「お家で何があったの！？」と言及する人も。「マジで美人……」と既に憧れを抱く人もいる。

ただ、全てにおいて共通するのは、彼女への好感度は最大値まで上がっている、ということだ。

彼女は、一瞬にしてクラスに溶け込んだのだった。

















それから高校3年生になるまで。彼女は、自分を偽り続けた。最初の頃は、自室で1人涙を流すことも、我慢し続けるあまり体調を崩すこともあったが、しばらくすればそれも収まる。

彼女は、自らの力で『完璧な自分』を作り上げたのだ。

ちなみに、親しみやすいキャラクターではなくあくまでも近寄り難い印象を持たせたのは、少しでも人と関わる機会を減らしたいという、彼女の捨てきれなかった本心のせいだ。そのかいもあってか、今まで誰にも、Aの本性を見破るものら現れなかった。

いつしか、彼女は自分の本当の性格を忘れていく。

心の中に溜まっていった僅かなストレスから、内気な自分が消え、変わりに口の悪い性格へと変貌していくA。夢ノ咲学院で大好きなアイドルができたのも、彼女が前とは変わった証拠だ。



＿＿＿＿＿＿そして、高校3年生。4月。






作り上げられた彼女の『完璧』は、たったの3日で無残にも零れ落ちるのだった。






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