姉と主治医の話

12　すべきこと ページ12

スナイプがバグスターを壁に叩きつける。
地に伏しても襲いにかかってくるバグスターを踏む。

その戦い方は、普段の大我とはあまりにもかけ離れていた。

「……西馬！」

誰かに名前を呼ばれた。

って言ってもこんなところにいる人間なんて限られてるし、すぐに坊っちゃん先生だって分かるけど。

「坊っちゃん先生、これ、どうなってんの？」

スナイプがバグスターを撃ち抜いた衝撃でまた地面が揺れる。

何とかバランスを取りながら坊っちゃん先生に近付いて、私はそう問うた。

「まず、お前には大切なことを言う必要がある。
……西花Aが、消滅した」

また、私が立つ地面が揺れた。

でも、それは本当にそうだったのかは分からない。

私の心は、地面の見えない暗闇に突き落とされてしまったから。

そっか……だから大我はあんなに暴れてるんだ。

A姉を、大切な人を奪われてしまったから。

数日前のことを思い出す。

『大我は、誰かが支えてあげないといけないと思う』

『だったら私達がその役目をしよう？
私とA姉なら余裕でしょ』

『流石ニコ。
いいこと思いつくじゃん』

あの誓いは、何だったんだろう。

結局、A姉が大我を助けられたのはこのガシャットだけじゃん。

何で、それだけで満足したみたいに消えてるんだよ。

大我を壊して、どうするんだよ……！

怒りがふつふつと湧いてきたけど、ぐっと堪える。

今の私がすべきことは、怒ることじゃない。

「大我ぁ！」

私は暴れているスナイプに駆け寄る。

坊っちゃん先生が危険だ、とか戻れ、とか叫んでるけど、無視する。

大我を支えられるのは私とA姉の二人。

その内の一人がいなくなったんだ、だったら私がやるしかないだろう。

私は大我の眼前にガシャットを突きつける。

「よく見ろ！
ガシャット、完成した！
A姉があんたのために作ったガシャットだ。
A姉のガシャットだ！」

実際は小星のおっさんとかその他諸々の共同製作だけど、細かいことは気にしちゃいけない。

だって、明らかに大我の雰囲気が変わったから。

スナイプのマスク越しではあるけど、大我の理性が戻ってきたのが分かる。

さっきまで放っていた殺気が消えて、心が穏やかになってるのが分かる。

大我は私の手からそっとガシャットを取った。

A姉が残してくれた攻略の鍵を使って、大我はゲームクリアの扉を開こうとした。

この鍵で、大我が開けるはずだったのに。

実際に扉を開いたのはMだった。

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