誘惑欲張りJEWELRY『3』

心の奥底で強く願う ページ7

「おっ待たせー!」

　一十木先輩の何時もより明るく大きい声が、撮影の為貸しきりにされ、誰も居ない浜辺に響き渡る。

　細長い手を振り、此方に満面の笑みを浮かべながら走ってくる一十木先輩。彼の姿が犬っぽく見えてしまうのは、きっと私だけではない筈だ。

「音也、はしゃぎ過ぎですよ。」

「わーいッ、海だー!!」

「あ、ちょっと、阿修さんまで!」

「悠太、さっき髪整えてやったばっかだから走るな!」

「えーッ、ケンケンのケチィ。」

　一ノ瀬先輩がはしゃぎ回る一十木先輩を咎めるも、海に来てテンションが高くなっている人は彼だけでは無かった。その事実に保護者的ポジションに居る何人かの人物が頭を抱える。

「あれ、子虎ちゃん、子羊ちゃんと子兎ちゃんは?」

「子虎ちゃんではなく、柏木です。
春歌先輩と澄空さんなら、今、水着に着替えてますよ。」

　神宮寺先輩の質問に、素直に答えるとその場に居る何人かが動揺した。

　流石は思春期真っ盛りなお年頃が多いアイドルメンバー。反応が分かりやすくて、見ている此方は大変楽しい。

　水着と聞き、ある者は頬をほんのり赤く染め、またある者はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ出す。

「Aは水着じゃないの?」

そしてある者はして欲しく無い質問を私に投げ掛けてきた。因みに、そのある者と言うのは如月さんの事である。

　空気読めよコンチクショー!

「忘れてきたんですよ、水着。」

　泳げないのを知られたくない、と言うのも理由の1つであるが、私のスタイルにも問題点がある為、水着は持って来なかった。

「ああ、なるほど。」

　正統派王子である皐月さんとは対照的な、Six Gravityのミステリアス王子と名高い卯月 新さんが私の胸の部分を眺め、何か納得した様に深く頷いた。

「待って下さい卯月さん、何がなるほどなんですか? 私の何処をどう見てなるほど?!」

　彼の反応に、思わず半泣き。胸と身長は私のコンプレックスである。

「いや、控えめなのも悪くないと思うぞ。」

「うっわ、言いやがった! 人が気にしてることオブラートに包んでる様で包まないで言いやがった! 何がミステリアス王子だ! ただのオープンスケベじゃないですか!!」

「フッフッフ、今頃気付いたのかね。」

「こら、新!」

　皐月さんが顔を真っ赤にしながら卯月さんを叱るも、全然怖くない。寧ろ、純粋で可愛らしい。

　世の中、皐月さんみたいな人が増えれば良いのにと心の奥底で強く願った。

「うちの子」発言→←嘘だと思っている

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